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認知症新薬を見据えた医療体制の確立を

エーザイはアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」について米食品医薬品局(FDA)から迅速承認を得た。日本でも3月までに製造・販売の承認申請をする。2023年中にも国内の患者に使える可能性が高まってきた。

認知症の半数以上を占めるアルツハイマー病は、長い年月をかけて脳の細胞がダメージを受け、次第に自立した生活を送れなくなる。薬の投与で「不治の病」の進行を緩やかにする意義は大きい。

米バイオジェンと共同開発したレカネマブは脳内にたまる原因物質を取り除く。早期患者を対象とした臨床試験で認知機能の低下を27%抑えた。病状が次の段階に進むのを3年ほど遅らせるという。

アルツハイマー病治療薬への患者や家族の期待は計り知れない。国内でも早期の実用化がのぞまれる。ただ、症状が消失する根治薬ではない。効果が出るのも初期段階に限られ、持続性もわかっていない。留意したい。

臨床応用に向け課題は多い。治療対象かどうかの見極めには精密な脳の画像検査などが必要となる。国内の専門医は約3000人で偏在する。治療をのぞんでも受けられない患者が出ないように医療機関の連携が要る。

エーザイは米国での値段を年間2万6500ドル(約350万円)に設定した。日本は薬価として国が算定する。米国より安くなる見通しだが、検査費用も含めると同200万円超の治療費となるだろう。仮に対象が10万人だと数千億円規模で医療財政を圧迫する。

医療費が増大しても介護の負担や費用が大幅に減らせる可能性がある。社会として認知症コストをどう負担していくか。総合的な議論が欠かせない。

日本認知症学会などは昨年11月、レカネマブの実用化を前提に副作用対策や費用対効果の検討を求める提言をまとめた。新薬を見据えた医療体制の整備が急務だ。

認知症薬の開発を巡っては海外の巨大製薬会社がしのぎを削っているが、失敗し続けてきた。エーザイは約40年、この分野の研究に経営資源を集中。巨額なコストがかかる実用化研究では米バイオジェンと連携し、レカネマブの実現にこぎ着けた。

日本発の画期的な新薬が誕生しなくなって久しい。長期的な視点で失敗を恐れずリスクをとって挑んだエーザイの経営姿勢には見習うべき点がある。