「大麻を試した方がいいと思いますか?」

 米ボストンのマサチューセッツ総合病院で慢性痛を専門とする医師のデビッド・ハオ氏は、重度の慢性痛に悩む新規の患者から、こんな質問をされることが多いという。ステロイド注射、痛みを感じる神経の切除、鍼治療、理学療法、手術など、考えられる治療法を一通り説明し終えたあとにだ。

 おそらく、家族や友人、またはメディアなどで、大麻あるいはそれに含まれる物質のカンナビノイドが痛みに効くという話を聞いているのだろう。そんなときハオ氏は、科学者として正直に答えることにしている。

「現在出されている研究の結果に基づけば、大麻の有効性には疑問があります」。今のところ、信頼できる研究でカンナビノイドに十分な鎮痛効果があることを示しているものはない。そのため、国際疼痛学会(IASP)は2021年に、大麻を使った鎮痛剤を推奨しないと決定した。

 2022年11月28日付けで医学誌「JAMA Network Open」に公開された臨床試験(治験)のレビュー論文も、証拠不足を裏付けている。この研究によると、プラセボ(偽薬)を処方された人の間でも、カンナビノイドと似たような鎮痛効果が出ており、有意な差は認められないという。

 つまり、大麻の物質ではなく、痛みに効くという期待が痛みを和らげている可能性がある。そして、人々がそのように期待してしまう一因となっているのが、メディアによる過剰な報道であると、論文の著者らは指摘する。広く読まれている大手新聞やその他のメディアは、ことあるごとに大麻の鎮痛効果を大げさに宣伝するような報道をしているという。

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/23/011200016/?rss