https://news.yahoo.co.jp/articles/fc85f3755dc295a9386cf7914ec49a0e7bf0322f

「裏切り者ではない」 ウクライナ側で戦うロシア人部隊

ウクライナ側に付いて戦う「自由ロシア軍団(Freedom of Russia Legion)」に加わるロシア人にとって、最も重要なのは秘匿性だ。

 自由ロシア軍団の正確な人数は機密事項であり、所在が明かされることもなく、声明を出す際には慎重に言葉が選ばれる。

 カエサルという仮名を使っている同軍団の報道担当者が、昨年秋にウクライナ軍がロシア軍から奪還したウクライナ東部ドネツク(Donetsk)州の村ドリナ(Dolina)で取材に応じた。

 カエサル氏はロシア語と英語を交えながら、「祖国と戦っているわけではない。(ロシア大統領のウラジーミル・)プーチン(Vladimir Putin)の体制、悪と戦っている」と語った。その上で「私は裏切り者ではない。国の行く末を案じる真の愛国者だ」と強調した。

 自由ロシア軍団は、ロシアがウクライナに侵攻してすぐに創設され、ウクライナ軍の外国人部隊の一端を担っている。そのエンブレムは、突き上げた握り拳に「ロシア」と「自由」という文字でデザインされている。

 カエサル氏によると、同軍団には「数百人」のロシア人が加わっており、2か月間の訓練を経て東部ドンバス(Donbas)地方に昨年5月に配置された。

 軍団の兵士の一部は、数か月にわたって激しい戦闘が続いている東部前線のバフムート(Bakhmut)で任務に就いている。

 匿名を条件に取材に応じたウクライナ関係者は、自由ロシア軍団について「士気の高い熟練した部隊で、任務を完璧にこなす」と語った。志願者には忠誠心を確認するため、数回に及ぶ面接や心理テストのほか、うそを発見するといわれるポリグラフによる検査も課されるという。

■政治的な宣伝工作で役割

 自由ロシア軍団の戦争遂行努力における貢献は、戦場以外でより大きな意味を持つと解説するのは、軍事専門家のオレグ・ザダノフ(Oleg Zhdanov)氏だ。

 ザダノフ氏は軍団について「戦闘行為に参加するものの、数が少ないために大勢には影響しない」と指摘する。その上で、「その重要性は政治的な側面にある。民主主義や自由を支援し、正しい側で戦うロシア人が存在することを示せるのはウクライナにとって好都合だ」との考えを示す。

 ソーシャルメディア上では、軍団は主にプロパガンダ動画を投稿し、数千人の入隊希望者がいるとしている。

 サンクトペテルブルク(St. Petersburg)出身で理学療法士として働いていた報道担当のカエサル氏は、入隊したのは政治的な動機があったためだと明かした。

 自身を「右派のナショナリスト」と形容するカエサル氏は、プーチン政権は武力でしか打倒することができないと考えている。
 
 カエサル氏は「ロシアは死につつある。地方に行けば、酔っ払いや薬物依存者、犯罪者が目に付くだろう。民衆は苦しんでいる」と訴える。20年もプーチン政権が続いたことが原因なのは明らかだと強調する。

「プーチンを支える体制や政府、側近のすべてが最低だ。敗者であり、地位を悪用した泥棒だ。金や快楽のために生きることにしか関心がない。国家を運営できるわけがない」と断じた。

 ロシアが昨年2月にウクライナに侵攻した後、カエサル氏は妻と4人の子どもをキーウに連れて来た。家族がウクライナにいることで自由に発言でき、家族の身もより安全だと考えている。

「家族の皆も爆撃の恐怖におびえ、寒さの中での暮らしを余儀なくされている。だが、私の選択に賛成している」と話した。