「気管支ぜんそくの主因が、大気汚染であると説明するのは難しい」-。川崎市職員がまとめた疫学研究論文が、行政や議会、公害病患者らに波紋を広げている。同市が約40年間蓄積してきたデータを引き、二酸化窒素(NO2)などの汚染物質濃度が低下している中でも患者数が増加している点に着目、「相関関係がみられない」と結論付けたからだ。因果関係を認めた川崎公害裁判の判決とは見解が異なる上、市側は成人ぜんそく医療費助成制度の見直しを示唆しており、専門家を巻き込んだ論争はしばらく続きそうだ。
◇公害裁判判決と相違
「大気汚染と健康被害への再考」と題した論文を5月、日本職業・環境アレルギー学会に発表したのは、市健康福祉局の坂元昇医務監。市内で測定を続けるNO2や二酸化硫黄(SO2)、浮遊粒子状物質(SPM)、微小粒子状物質(PM2・5)の年平均値と、毎年10月に市内医療機関を受診した患者数を比較し、関連を調べた。
調査期間の短いPM2・5を除き、汚染物質の濃度は過去40年で数値が低下する一方、人口千人当たりのぜんそく患者数は増加傾向に。1969年の4・3人が2011年に14・32人に達するなど、グラフは全体的に右肩上がりの上昇カーブを描く。
坂元医務監は、両者の因果関係までは否定していないものの、「データからは大気汚染が(ぜんそくの)主因とは説明できない」と指摘。汚染物質が糖尿病や発達障害に及ぼす影響を示唆する海外の報告にも触れ、「公害病被認定者の死因について全国調査が急務」と締めくくる。
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