捕鯨会社の「共同船舶」(東京都中央区)は2023年2月10日、新たな「捕鯨母船」の建造を開始しました。捕鯨母船の新造は非常に珍しく、世界で唯一の存在としてデビューすることになります。

【貫禄?老朽化?】36年選手の捕鯨母船「日新丸」(写真で見る)

 新造の捕鯨母船は約9100総トン、造船所は山口県下関市の旭洋造船です。同船は商業捕鯨の再開を踏まえて最新鋭の設備を備えつつ、海洋環境の保護を意識し、次世代燃料の導入も見据えた電気推進システムを採用するエコな捕鯨船となっています。船価は60~70億円程度で、引き渡しは2024年3月を予定。船籍港は下関市です。

「新母船建造は業界にとって非常に明るい話題になると思っている」。共同船舶の所 英樹社長はこう話します。

 共同船舶は世界で唯一、“母船式捕鯨”を実施している会社です。捕鯨母船「日新丸」(8030総トン)を中心とした捕鯨船団を組み、小型の捕鯨船が捕獲した鯨を母船である「日新丸」へと引き渡し、同船内の工場で加工して鯨肉原料を生産しています。安倍政権下の2019年に日本が国際捕鯨委員会(IWC)を脱退し、商業捕鯨を再開して以降、同社は排他的経済水域(EEZ)内でニタリクジラ、ミンククジラ、イワシクジラの3鯨種を対象とした、捕獲、生産、販売を行ってきました。

 しかし、1987年に竣工した「日新丸」は、すでに船齢が35年以上と老朽化が進行しており、安全性の低下と修繕費の負担増が課題となっています。加えて、もともと遠洋漁業で使用するトロール船として建造したものを、調査捕鯨を実施するため捕鯨母船に改造した経緯もあって、商業捕鯨の再開に伴う捕獲鯨種、捕獲枠の拡大に対応しきれず、より高性能な捕鯨母船の建造が求められてきました。

 ただ、捕鯨母船自体が極めて珍しく、「『日新丸』と名付けられた大型の捕鯨母船は1951年以降、日本で建造されておらず、新造となると70年ぶりくらいになる可能性がある」(関係者)というほど。これまでも新型の捕鯨母船を建造する計画があり、水産庁も交えて検討も行っていましたが、船価や採算性の問題もあって立ち消えになってました。
 
「捕鯨を持続的に行っていくためには母船が必要だが、今の日新丸はもうボロボロ。安心できる製品を作ることも、船を動かすことも限界が近づいてきている。これを維持するには年間7億円の修繕費がかかる」(所社長)。

 そのため、なんとしても新しい母船を作らないと、「捕鯨文化を次の世代に伝えていくことができない」と、切実な背景を説明しました。

https://news.yahoo.co.jp/articles/dbff2abfd4c0f4820f9ecefe84f12d04c4e1dd80