指導方針の転換が、中学軟式の京都府大会連覇につながった。福知山市にある日新中の野球部を率いる審研人(あきら・けんと)監督は3年前、結果を指摘する指導からプロセスを重視する方針に変えた。選手に判断の基準を示せばプレーの質は向上し、指導者は感情的にならないという。

日新中は昨夏、京都府中学総体軟式野球の部で連覇を果たした。昨秋の新人戦でも京都府の頂点に立ち、野球が盛んな近畿地方で存在感を示している。審監督はチームを率いて9年になるが、選手に意図が上手く伝わらず苦労していた時期は長かったという。

「日本一になった中学生のチームや高校の野球部を指導する先生方のところへ勉強に行ったのですが、最初は知識ばかり増えて頭でっかちな指導になってしまいました。選手たちは困っている様子で、どうすれば良いのか考える日々でした」

 大学まで野球をしていた審監督は、理想のプレーやチームを思い描いていた。ただ、指導する相手は中学生。体は成長途上で野球経験も長くない。伝え方を工夫しなければ、距離は縮まらないと気付いた。選手の表情や動きを見ながら理解度を確かめ、できるだけシンプルな言葉でプレーの意図を説明するように心掛けた。

 例えば選手が迷わず動けるように、走攻守で基準を設けている。走塁練習ではカラーコーンを活用。塁間に色の違う複数のコーンを置き、アウトカウントや打球などに応じて、2次リードやオーバーランの距離を視覚で理解できるようにする。選手は指揮官の狙いを把握すると、チームメートに「今の打球なら、赤のコーンまで行けるよ」などと自然に声をかける。

 試合では、打撃の基準を示す時もある。スライダーが得意な投手と対戦した際、審監督は「外角低めのスライダーを振らないように」ではなく、「見逃し三振はOKだから低めの球は捨てよう」と伝える。三振という結果は評価の対象ではなく、プロセスを大事にする。


結果の指摘では選手が委縮…「プロセス重視」で好結果


「結果を指摘すると、選手は指導者の顔を見るようになってしまいます。基準を設ければ選手は思い切りプレーできます。切れの良いスライダーに三振しても、相手投手の力が上なので仕方ないとチーム全体で割り切って気持ちを切り替えられます」

 練習や試合でミスや課題が見つかった時はプロセスを振り返って、チームの基準が守れていたか共有する。基準を外れてエラーにつながった場合は、意識を徹底して失敗を繰り返さないように修正できる。基準通りにプレーした上で攻撃が無得点に終わった時は「良い攻撃ができた」と前向きになれる。審監督は「結果に対して何も言わなくなりましたし、失敗を怒らなくなりました」と話す。

 指導方針を転換したきっかけは2020年に立案して開催したイベント「野球フェスティバル」にあった。野球人口を増やす目的で地元の園児を対象に、日新中の野球部員が指導役を担った。柔らかい球でキャッチボールをしたり、園児に投げ方を教えたりする選手の姿を見た審監督は自身を見つめ直した。

「勝敗も大事ですが、野球の原点は楽しさにあると改めて思いました。選手が仲間と野球をする楽しさ、うまくなる楽しさを感じられる指導にしなければいけないと考えました」

 このイベントをきっかけに、チームは結果を残せるようになった。特別なトレーニングを導入したり、突出した能力のある選手が加入したりしたわけではない。指揮官が怒るのを辞め、選手への伝え方を変えた結果だった。審監督は「私1人ではできないことがたくさんあります。方針をチーム全体で共有して、部長やコーチ陣と役割分担できているところも好成績の要因です」と語った。

 ただ、大会の優勝は目的やゴールではない。「できないことができた瞬間、選手たちはそれぞれの表現方法で喜びを表します。それを見たり、感じたりする瞬間が一番の幸せでやりがい。高校でも野球を楽しんでもらえたらうれしいです」と審監督。指導者の考え方が変われば、選手も自然と変わっていく。

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