「助けてけろー」

 「助けるから、がんばれ!」

 山に囲まれた小さな港に男たちの声が響いた。

 岸壁に魚を運び上げていた際、海に転落し、冷たい海水につかった漁師。助けを求める叫び声は、次第に弱くなり、強い雨音に消されていく。

 こんな悪条件の中、命は救われた。海の死亡事故をなくしたい――。地元の漁師たちの思いがあったからだった。

 3月26日午後0時50分ごろ、岩手県大船渡市三陸町にある綾里(りょうり)漁港で、救出劇があった。

 三陸沖は、黒潮と親潮、津軽暖流の三つの海流が交わり、年間を通じて魚種が豊富だ。港には数十隻の漁船が係留されているが、この日は悪天候のため、人影はないはずだった。

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