「赤身」は実はヘルシーではない

美味しい牛肉の代名詞ともいえる「霜降り」のお肉。

牛肉のランクを決める基準の一つに、サシ(脂肪)がどれだけ細かく入っているか、ということがあるそうです。いわゆる「A5ランク」の高級肉は、綺麗にサシが入った霜降りの肉ということになります。

ただ、最近は健康志向の強まりに合わせて、霜降り肉を敬遠する人も増えているようです。

脂質がそれだけ多いので、コレストロールや中性脂肪を増やす要因になると考えられているのです。

その代わりに、人気が上がってきているのが「赤身」の肉。

脂肪分が少なく、タンパク質が豊富でヘルシーだというわけです。

確かに、そういう側面もありますが、腎臓専門医の立場からすると、手放しで推奨はできません。赤身の肉には意外な落とし穴があるのです。

腎臓の機能を守るためには、赤身の肉は避けたほうがいいでしょう。

理由の一つは、たんぱく質量の割に、リンが多いからです。

リンの過剰摂取は、腎機能低下、慢性炎症の引き金となることがわかっています。

リンは、私たちが生きていく上で必須のミネラルです。体を動かすためのエネルギーになったり、代謝などで重要な役割を担ったりしています。

また、カルシウムとともに骨格を形成する働きもあります。

ところが、リンの過剰摂取によって血中のリン濃度が上昇すると、カルシウムとリンのバランスが崩れ、骨から血液中にカルシウムが放出されます。そのため、骨のカルシウム量が減少する骨軟化症などのリスクが高まります。

また、血液中のリンが血管に入り込んで、骨のように硬くなる石灰化が起こります。

それだけでなく、リンとカルシウム、血液中のたんぱく質が結びつくと、血管の内側を傷つけて炎症を起こしたり、血管が硬くなる「石灰化」を誘導します。

こうして、腎臓の血管が動脈硬化を起こすと、腎臓の機能が大幅に低下します。

もう一つの問題点は、腎臓に悪影響を与える「メチオニン」というアミノ酸の存在です。

たんぱく質を構成しているアミノ酸の中で、体内で合成されないものを「必須アミノ酸」といいます。必須アミノ酸は体の外から補わなければならず、栄養学的には積極的に取ることが推奨されてきました。しかし、取り過ぎると、逆に老化を促す場合もあります。

そんな必須アミノ酸の一つが、メチオニンです。

メチオニンは、肉類、鶏卵、マグロやカツオなどの魚介類、牛乳やチーズなどの乳製品、豆腐や納豆といった大豆が原料の食品に多く含まれています。

メチオニンを過剰に摂取すると、血管の中に蓄積して悪玉コレステロール(LDLコレステロール)と結合することで、動脈硬化を引き起こします。

カロリー制限の効果を検証した動物実験で、メチオニンの含有量を減らしたエサを与えたネズミのグループは、そうではないグループと比べて腎機能が保たれて寿命が延長したと報告されています。

たとえ必要とされている栄養でも、年齢を重ねると体内でうまく利用されず、蓄積していくことで血管などにダメージを与える場合もあります。成長期の子どもや20~30代の「健康常識」が、そのまま40代以降にも当てはまるわけではありません。

さらに、赤身の肉には、鶏肉や豚肉などと比べ、腎臓に悪影響を与えるカルニチンが多く含まれることが分かっています。

また、メチオニンは、動物性のたんぱく質に含まれているものは腎臓に負担をかけますが、実は大豆などの植物性たんぱく質に含まれている場合、ほとんど吸収されません。

たんぱく質を積極的に摂取する場合には、大豆など植物性の食品を選ぶようにしましょう。

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