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1999年に逝った男が綴ったサイトが今も残る意味
20年以上無管理「池田貴族心霊研究所」の役割

池田貴族心霊研究所」(http://www5d.biglobe.ne.jp/~kizoku/)というサイトがある。1999年12月に亡くなったミュージシャンでマルチタレント、心霊研究家としても知られた池田貴族さんのホームページだ。
暗闇に浮かぶ“研究所”の中に入ると、3Dダンジョンふうの通路が現れて「研究室」や「所長室」などに進めるつくりになっている。それぞれの部屋に入ってアイテムを選ぶと貴族さんのプロフィールや心霊写真、心霊体験談などのコンテンツがポップアップするつくりだ。

室内のコンテンツにほころびはないが、長らく更新している様子はない。表だった動きはなくても荒らされたり消失したりしないように誰かが目を光らせている例は、この連載でも何度かみてきた。しかし、このサイトが無管理状態にあることは、いくつかのブラウザーで表示するとすぐ推し量れる。研究所の上空にぽっかりとFlash用の空枠が残っているからだ。

ホームページ時代を彩ったFlashは、2020年末にアドビがサポートを終了したことで事実上の終わりを迎えている。それから1年半が過ぎても修正する兆しは見られない。その佇まいはまるで廃墟のようだ。

いつからこのような姿になったのだろう? コンテンツを読み込むと、情報が2000年頃で止まっていることがわかる。止まった理由が貴族さんの死ではないことも「所長室」から飛べるプロフィールページから伝わる。

<池田貴族(ミュージシャン)
本名:池田 貴
生年月日:1963年5月8日
血液型:AB型
出身地:愛知県
リーダーでボーカルを務めるロックバンド「remote」がホコ天、イカ天のバンドブームで人気上昇。90年シングル「No!」でメジャーデビュー。
92年9月バンド解散後は、音楽プロデュースと同時に、心霊・超能力・マルチメディアなどの専門家として、テレビ・雑誌でも活動。
本名の池田貴での小説執筆も行っていた。
99年12月25日 午前3時35分 肝細胞がんのため、名古屋市内の病院で永眠。享年36歳>
貴族さんは生前からがんであることを公表しており、複数の闘病記を刊行し、生まれたばかりのわが子に向けたアルバムCDもリリースしている。それらの作品の情報も、死没の事実とともにまとめられている。つまり、このサイトは貴族さんが亡くなった後も誰かが管理しており、新たなコンテンツを作っていた時期があるのだ。現実のお墓の写真とアクセス方法をまとめたページまで作られている。
サイトの動きが止まっておそらくは20年余り。このサイトはどんな意図で引き継がれ、手放されて現在に至るのか。その背景を知るには、貴族さんが生きた時代まで時計の針を戻す必要がある。
長女が生まれた22カ月後に逝去
プロフィールにあるとおり、貴族さんはTBSの人気番組「三宅裕司のいかすバンド天国」(通称・イカ天)での活躍をきっかけに、ロックバンド「remote(リモート)」のボーカルとして1990年にメジャーデビューを果たしている。バンドは2年後に解散したが、その後もアーティスト兼マルチタレントとしてメディアで活躍を続けた。「池田貴族」で検索すれば往時の実績が簡単にたどれる。