仮面ライダーあやうし! ――といっても、相手はショッカーではない。3月18日に全国公開された「シン・仮面ライダー」の評判がかんばしくないのだ。
【写真を見る】元祖・一文字隼人を演じた佐々木剛(76)
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2016年「シン・ゴジラ」で興行収入82億円をたたき出し、20年「シン・ウルトラマン」でも44億円と成功を収めた庵野秀明監督の最新作「シン・仮面ライダー」は、公開直後から客足が鈍く、ネット上でも「暗すぎる」「感情移入できない」といった批判が相次いでいる。既に公開規模も縮小され、このままでは映画館から姿を消しかねない。
その「暗い」と難じられる本作で、比較的明るく、屈託ないキャラとして場を和ませているのが、柄本佑演じる仮面ライダー第2号こと一文字隼人である。
「忙しくて断りたかった」
2号の来歴は面白い。1971年からテレビ放送が始まった「仮面ライダー」で、仮面ライダー・本郷猛役の藤岡弘が第9・10話撮影中に大けがをして入院。そこで、脚本上、“本郷ライダー”は海外に出かけたことにし、急遽、別のヒーロー“一文字ライダー”を仕立てたのである。テレビ版の一文字も、本郷と対照的に明るい性格。ベルトに風を受ける変身方式は、腕を回す独特のポーズに変更。それが子供たちの心をつかみ人気が爆発した。
「当時、俺は東京で月火水木、大阪で金土日と仕事で、忙しくて断りたかった」
と語るのは、元祖・一文字を演じた佐々木剛(76)ご本人である。
「でも、デビューさせてもらった『柔道一直線』というドラマで大野剣友会(『仮面ライダー』のスタント担当)に世話になったんでね。1クールの約束で仕方なく引き受けたんだ」
佐々木氏の半生もまた、火災で瀕死の大やけどを負ったり、離婚した後にホームレス生活を送ったりと、すさまじい。決して「明るい」だけの人生ではなかったが、今は東京都板橋区で「バッタもん」という居酒屋を経営。店内は、仮面ライダーのイラストやグッズで埋め尽くされている。https://news.yahoo.co.jp/articles/bd5744b44dfca2aa380b5814170491c0798e59e2
楽でいいなと」
そんな佐々木氏、招待券が送られてきたので、封切り早々映画館に足を運んだという。感想を伺うと、
「まあ……別物だと思ってます」
と渋い顔。
「映像技術は昔と違うし、楽でいいなと。金掛けてるなと。それにしては、客はまばらだったけど」
特にアクションシーンがご不満だったようで、
「バイクアクションももっと見たかったね。俺らは低予算で、命懸けだった。ヘリコプターもそうそう呼べないから、時間が惜しい。命綱なしでヘリの脚につかまったら、スタッフが操縦士に“旋回!”って。本当に旋回しやがる。よく死人が出なかったもんだ」
翻って「シン・仮面ライダ」では、ライダーたちがコンビナートの中で数十メートルの高低差を跳んだり跳ねたり。もちろん映像処理である。
「一文字とは関係ないから」
映像処理といえば、今も続くテレビシリーズもCGだらけだが、そちらは気にならないという。
「バイクでなくクルマに乗ってるライダーもいたけどね。でも、それは一文字とは関係ないから」
佐々木氏は「改造人間哀歌」と題する舞台シリーズの主役を演じ続けている。仮面ライダーなどの呼称は使わないが、一文字のその後を思わせる内容。彼にとって“一文字隼人”は、単なる役名でなく、人生そのものだった。
「僕は“一文字隼人”をしょってますからね」
その言葉に、本物ライダーが偽物ライダーと戦う劇中シーンが重なった。