およそ10年前にサンフランシスコではホワイトカラーの職に就く大卒者の流出が増え始め、その勢いは加速している。アメリカのほかの地域に移住する人が増加していっているのだ。高学歴ワーカーの流出の加速は、アメリカの比較的貧しい地域なら「頭脳流出」と考えられてもおかしくないような状態となっている。

新型コロナウイルスのパンデミックが始まると、こうした移住の流れは急激に強まり、最近のサンフランシスコ地域では高学歴ワーカーの流出が流入を上回るようになっている。

カリフォルニア州のサンノゼやロサンゼルスでも同様のパターンが浮上。その傾向は、ワシントンDCやニューヨーク市などアメリカ各地で強まっている。リッチな大都市からの高学歴ワーカーの流出は、パンデミック以前から続く現象だ。

揺らぐ「スーパースター都市」

国勢調査のマイクロデータを使ったニューヨーク・タイムズの分析で露わとなったこの傾向は、振り返ってみればショッキングとさえいえる。大企業や官庁が欲しがる高学歴ワーカーのハブとなっていたのが沿岸部の大都市で、経済学者からはそうした沿岸部への富の集中を嘆く声が上がっていた。

人々の不満につけ込む政治家も、こうした状況をうまく利用していた。沿岸部の大都市は「スーパースター都市」として別格の存在となり、高学歴ワーカーを集積することでアメリカ経済に巨大な影響力を及ぼすようになっていた。

ところが、国内の人口移動データを見ると、低所得の住民が生活費の高い沿岸部の都市に住めなくなる状況が何年も続いた後、今度は高所得ワーカーもそうした都市から流出するようになった。

確かに沿岸部の大都市には、今でもアメリカのほかの地域から生産年齢の大卒者が流入し続けている。とはいえ、流出者の数が急速に増加していることから、高学歴人材を引き寄せてきた大都市のメリットは薄らぎつつある。上述の分析からは、サンフランシスコ、サンノゼ、ロサンゼルス、ワシントンDCのすべてで、大卒者が流入する以上に流出するという、重要な一線を越えたことが明らかになっている。

今世紀に入ってからほぼつねに、アメリカ国内で移住する大卒者の動きは人口100万人以上の大都市にプラスとなり、小規模な都市が割を食ってきた。だが、こうした大都市の中でも最も生活費の高い12の都市(そのほぼすべてが沿岸部に位置する)では、大卒者が流入によって純増する一方、学位を持たない労働者が大量に流出するという、ほかにはない2方向の人口移動パターンが観察されてきた。

少なくとも、最近まではそうした状況になっていた。ところが今では、生活費の高い大都市からは、大卒者とそうでない労働者の双方が流出するようになっている。

豊かな地方都市に移住する動きが加速

大都市から流出した大卒ワーカーは、栄えてはいるがそこまで生活費が高くないフェニックス、アトランタ、ヒューストン、フロリダ州タンパのような都市に向かう傾向が強まっている。パンデミック中には、メイン州ポートランドやノースカロライナ州ウィルミントンなど、比較的小さな都市に流入する大卒ワーカーも増えた。

アメリカの人口移動率は現在、歴史的に見ても低い水準となっており、1980年代以降、移住率はあらゆる人口集団で低下してきている。もっとも、大卒ワーカーの間では近年、そうした傾向が逆転した。

パンデミック前の数年間で、大卒ワーカーの移住率は実際に上昇していた。どんどんと移住するホワイトカラーと、1つの場所にますますとどまるようになったブルーカラー労働者の間で、アメリカ経済に新たな分断が潜在的に生まれた格好になる。

高学歴ワーカーにおいては、生活費が高すぎて大都市に住めなくなった人と、生活費的には問題なくても大都市を去る選択をした人を区別するのは簡単ではない。

それでも、アメリカで最も生活費が高い大都市では、収入が比較的高い層でも生活費を払えなくなる人が全体として増えてきていることははっきりしている。これら大都市が一段とリッチになるにつれ、住宅価格の高騰に拍車がかかったからだ。

「その結果、生活費を払えずに出ていく人がますます増える。平均的な収入の人々だけでなく、高収入で大学の学位を持った人々でさえも、だ」。アメリカ商務省で経済問題担当次官を務めるジェド・コルコはそう話す。

例えば、ベイエリアが1世代以上前にバス運転手や在宅介護士がチャンスを夢見て住める場所でなくなったように、今のベイエリアはエンジニアやコンサルタントにとっても魅力的な場所ではなくなりつつあるのかもしれない。

https://toyokeizai.net/articles/-/673897?page=3