論文海賊版サイト、日本の違法ダウンロード720万件 5年で5倍超(毎日新聞)
https://news.yahoo.co.jp/articles/856677ce4efabd6adfe9666ba88a631b89091df6

有料の学術論文をインターネット上に無料で公開する違法な海賊版サイトの利用が急増し、日本からのダウンロード数が2022年に延べ約720万件に上ったことが毎日新聞の調査で判明した。比較可能な17年の5・6倍に当たる。論文の購読料高騰が背景にあるとみられるが、利用する研究者側の倫理も問われる。

サイトの名称は「Sci―Hub(サイハブ)」。カザフスタンの研究者が11年に開設したとされ、出版社と購読契約を結ぶ大学のアカウントを協力者から入手するなどして無断で論文を収集。23年6月現在、8800万本以上が公開され、誰でも無料で全文ダウンロードして閲覧できる。

著作権を侵害しており、正当な利益が出版社に還元されず学術誌発行が困難になる恐れがある。海外では出版社から損害賠償を請求されたり、ネット上の住所に当たるドメイン名を裁判所に差し押さえられたりしている。

毎日新聞はネット情報を保存するアーカイブサイトから、サイハブが22年に公開した月別ダウンロード数を集計した。その結果、中国の入手件数が延べ約4億6741万件と最も多く、米国▽ロシア▽ブラジル▽インド――と続いた。

日本は約720万件で、国別では14位。琉球大などのチームの調査によると、17年は約127万件(28位)だった。5年間で5・6倍に増えた計算になる。

背景には論文購読料の高騰があるとみられる。文部科学省などによると、21年度に国公私立大が支出した購読料は電子版だけで約329億円と、04年度の5倍以上に膨らんだ。一方で、大学が国から受け取る運営費交付金は削減が続いており、千葉大や琉球大など出版社との購読契約を縮小する大学も出ている。

サイハブは大学の資金難などで論文を自由に読めない研究者から支持を得ている。ただし、違法サイトと知りながらダウンロードすることは著作権法違反に当たり、刑事罰の対象となる場合もある。サイハブ側にはメールで取材を申し込んだが、5日までに回答はなかった。

サイハブのデータを分析した経験がある栗山正光・元東京都立大教授(図書館情報学)は「ここまで利用者が増えていたとは驚きだ。もちろん許されない行為だが、サイハブや利用者だけが一方的に悪いとは決めつけられず、学術情報流通体制の構造的な問題が背景にある」と指摘した。

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調査は、過去のネット情報を保存しているアーカイブサイト「ウェイバックマシン」を利用した。サイハブは直近1カ月間のダウンロード数を国別に上位20カ国・地域まで公表している。各月末時点の数値を足し算し、22年の年間ダウンロード数を割り出した。

公表データについて、栗山元教授は「利用者数の公開は出版社から攻撃材料にもなる。数字を都合良くでっち上げる動機はないと考えられる」と、一定の信頼性はあると評価した。【鳥井真平】