産業社会とその未来 日本語訳
https://yusisou.com/page-9/

(前略

現代の左翼主義の心理学

6、ほとんど誰もが私たちの住む社会が大きな問題を抱えていることに同意するでしょう。われわれの世界でもっとも広く行きわたった狂気のひとつが、左翼主義である。そのため現代社会の問題を議論するには、まず左翼主義の心理を議論することから始めよう。

7、ところでいったい左翼主義とは何か。20世紀前半において、それは社会主義とほとんど同一視されてきた。現在ではそれぞれの動きがバラバラになってきており、何を指して左翼と呼ぶことが相応しいのか確信がない。この記事のなかでわれわれが左翼という場合、主に社会主義者、集団主義者、政治的に正しい、タイプやフェミニスト、ゲイ(LGBT)と身体障害者の人権保護活動家、動物愛護活動家のような人々を指している。しかし、これらの運動のひとつに関係している人物が、すべて左翼であるというわけではない。われわれが左翼主義を取り上げていることは、運動そのものやイデオロギーの心理についてではなく、このような傾向を持つ関連タイプについてである。われわれがここで『左翼主義』と呼ぶものによって左翼的な心理がはっきりと見えてくる(第227~230項3照)。

8、それでもわれわれの左翼主義に対する概念は、われわれが望むほどはっきりはしていないだろうが、これに対処する方法が見つからない。ここで明確にしようとしているのは、現代の左翼主義に影響を受けている2種類の大まかな心理的傾向についてである。左翼心理のすべてについて話そうなどという気持ちはない。またわれわれの議論は、現代の左翼主義にだけあてはまる。われわれの議論が、19世紀と20世紀初頭の左翼についてもあてはまるかどうかという問題はここでは触れないでおく。

9、現代の左翼主義の基礎をなす2つの心理学の傾向を、われわれは、”劣等感”と過剰社会化、と呼んでいる。劣等感が現代の左翼主義の全体的な傾向であるのに比べ、過剰社会化は現代の左翼主義のある特定の特徴である。しかしながらこの要素は非常に影響力がある。

劣等感

10、『劣等感』というのは、厳正な意味での劣等感だけではなく、それと似たような精神構造、自尊心の欠如、無力感、うつ病の傾向、敗北感、罪悪感や自己嫌悪なども含まれる。われわれは、現代の左翼主義がこれらのこのような感情を(多少抑制されてはいるが)持つ傾向があると考える。そしてこれらの感情が、現代の左翼主義の方向性を左右しているのである。

11、誰かがある人物、またはその人物が属する特定のグループを差別する場合、その人物は劣等、あるいは自尊心が低いとみなされる。このような傾向は、本人がそのグループに属しているいないにかかわらず、マイノリティ(少数派)の権利を主張する活動家に見られがちだ。彼らは少数派を指して使われる言葉に、非常に敏感である。「ニグロ」「オリエンタル」「身体障害者」「チック(ひよこ)」などの言葉は、それぞれアフリカ人、アジア人、体の不自由な人、そして女性を指していたが、もともと軽蔑の意味は含まれていなかった。「ブロード」「チック」は、男性でいえば「ガイ」「デュードゥ」「フェロウ」)などと同じ種類のものである。これらの言葉が軽蔑的な意味合いを持つというのは、活動家たち自らが言い出したことである。
ある種の動物愛護活動家は、「ペット」という言葉を否定し、「アニマル・コンパニオン」と呼ぶことを主張する。左翼的な人類学者は、未開文化の人々を説明するのに否定的に解釈されかねない表現を使うまいと、長々とまわりくどい言い方をする。「未開」を「読み書きの発達していない」と言い換えようと試みている。どのような未開文化に対しても、われわれのものより劣っていると解釈されかねない表現については、ほとんど妄想的である(われわれはここで未開文化がわれわれよりも劣っていると主張するつもりはない。たんに左翼的な人類学者の過敏さを指摘しているだけである)。

12、政治的に間違った、用語に最も敏感な人々は、スラム街出身の黒人でも、アジアからの移民でも、迫害された女性でも、身体障害者でもない。社会的地位のある背景から出てきた少数派の市民権の尊重を主張する活動家である。「政治的な正しさ」は安定した収入の大学教授や、白人の異性愛好者の中産階級出身である大多数派に人気があるのだ。