https://www.juntendo.ac.jp/news/00163.html
アルコールに強い人が糖尿病になりやすいメカニズムを明らかに
〜 飲酒量が多いと肝臓でのインスリン感受性が低下する 〜
順天堂大学大学院医学研究科 代謝内分泌内科学・スポートロジーセンターの田村好史 先任准教授、河盛隆造 特任教授、綿田裕孝 教授らの研究グループは、正常体重の日本人男性約100名を対象にした調査を行い、アルコールに強い遺伝子型を持った人は、飲酒量が多くなることで肝臓のインスリンの効きが悪くなり、空腹時血糖値が高くなる可能性を世界で初めて明らかにしました。糖尿病の発症のしやすさは遺伝因子や環境因子に影響を受けますが、東アジア人ではアルコールへの耐性を規定するアルデヒドデヒドロゲナーゼ2 遺伝子多が、アルコールに強い遺伝子型であると糖尿病になりやすいことが近年明らかになっています。本研究成果は、その新規メカニズムを世界で初めて示したものであり、予防医学の観点からも、極めて有益な情報であると考えられます。本研究は米国内分泌学会雑誌のオンライン版で公開されました。
本研究成果のポイント
東アジア人でアルコールに強い遺伝子型であると糖尿病になりやすいが、そのメカニズムは不明であった。
アルコールに強い遺伝子型を持った日本人男性では、飲酒量が多くなることで肝臓のインスリンの効きとグルコースクリアランスが低下し、空腹時血糖値が高くなる可能性を明らかにした。
日本人男性の糖尿病発症につながるメカニズムの一端の解明から、アルコールの摂取量の適切な管理が糖尿病予防に重要あり、飲める人ほど特に注意が必要であることが示された。
背景
日本人を含む東アジア人は肥満でなくても糖尿病になりやすいことが知られています。実際、東アジア各国の2型糖尿病患者の平均体格指数(body mass index; BMI)は25kg/m2未満であることが多く、その原因の一部は、東アジア人の遺伝的素因が関係していると考えられています。この点に関して、近年、東アジア人433,540人のゲノムワイド関連研究が行われ、アルコールへの耐性(強さ)を規定する遺伝子型として知られているALDH2遺伝子多型が、男性の2型糖尿病の疾患感受性遺伝子として新たに同定され、アルコールに強いタイプの遺伝子型を有する男性は糖尿病になりやすいことが報告されました(Nature 2020)。しかしながら、アルコールに強い遺伝子型であるとなぜ糖尿病が発症しやすいのかは、不明な点が多く残されているため、その機序の解明を目指した研究を行いました。
内容
本研究では、BMIが正常範囲内(21〜25 kg/m2)の日本人男性94人を対象に、ALDH2遺伝子型と、インスリン感受性や代謝における各パラメーターとの関連性を評価しました。インスリン感受性の測定には10時間以上を要する2-ステップ高インスリン正常血糖クランプ法 *2と呼ばれる特別な検査法を用いました。本検査法による正常体重の男性を対象にした100人規模の調査は、世界でも本研究グループ以外に前例がありません。その後、参加者の代謝的特徴をアルコールに強い遺伝多型(ALDH2 rs671G/G)を持つハイリスクグループ(53名)とその他の遺伝子型(ALDH2 rs671G/A またはA/A)のローリスクグループ(41名)に分けて比較しました
参加者をアルコールに強い遺伝子多型 (ALDH2 rs671G/G)を持つハイリスクグループ(53名)とその他の遺伝子型(ALDH2 rs671G/A またはA/A)のローリスクグループ(41名)に分けて代謝的特徴を比較しました。その結果、ハイリスクグループではローリスクグループと比較して、飲酒量が多く、空腹時血糖値が高く、そのメカニズムとして、肝インスリン感受性と、グルコースクリアランスの低下が関連すると考えられました。実際に、アルコール摂取量と肝インスリン感受性・グルコースクリアランスの間には有意な負の相関を認めました。
その結果、ハイリスクグループでは1日に18.4g(中央値)のアルコール(ビール370ml程度)を摂取し、ローリスクグループの摂取量12.1g(ビール240ml程度)の約1.5倍となっていましたが、体脂肪量、肝脂肪量や肝機能などにはグループ間で有意な差は認められませんでした。しかしながら、空腹時血糖値はハイリスクグループでは97.5±7.9mg/dLで、ローリスクグループの93.5±6.2mg/dLに比べ有意に高いことが明らかとなり、ハイリスクグループでは、太ってはいないものの、飲酒量が多く、空腹時血糖値が高いことが分かりました。そこで、ハイリスクグループで血糖値が高くなるメカニズムを解析した所、ハイリスクグループでは肝インスリン感受性*3と、グルコースクリアランス*4が低下しており、その一部は飲酒量の多いことが関連していました。実際に、ハイリスクグループであっても、飲酒量が1日30g未満であると30g以上の人に比べて空腹時血糖値が低く、肝臓のインスリン抵抗性も比較的良好であることも明らかとなりました