まだ叩く気?

「修学旅行ができなかった私の分も、子どもたちに楽しい思い出をつくってほしい」。阪神間に住む90歳代の男性が5月、そんなメールを兵庫県三田市社会福祉協議会に送った。
関心を持ったのは、困窮世帯の小中学生に修学旅行の小遣いを補助する寄付事業だ。20万円を振り込んだ。「苦労している人たちに手を差し伸べるのは、当たり前のことですわ」。張りのある声で、男性は思いを語る。

空襲で神戸の家を失い、10歳代前半で終戦。翌年、父と兄を相次いで病気で亡くした。中学を出てすぐ働き始めた工場で給料を前借りしては、体が弱い母の薬代を工面した。

母まで逝ってしまった後も「朝5時から夜中まで、汗と機械油にまみれたよ」。六つ違いの弟を高校に入れるのと同時に、自分も定時制高校で学び始めた。
「初めて勉強らしいことをした4年間やったなあ」。勤め先で得た技術を生かして30歳代で独立し、金属プレスの工場を起こした。
https://www.yomiuri.co.jp/national/20230617-OYT1T50077/