自殺者の約7割が男性で中高年層が多い

自ら命を絶つ人の数は、中高年が多い。自殺率(人口10万人あたりの自殺者数)が最も高いのが、50〜59歳で、2020年は20.6人だった。
さらにその下のいわゆる「氷河期世代」と呼ばれている人たちの自殺率も高い。子どもと高齢者の問題については、国会やメディアなど議論される機会も多いが、氷河期世代についてはほかの世代と比べてあまり扱われない。
まさに「忘れ去られた世代」といえるだろう。

氷河期世代を含む中高年への支援にあたっては、性別を問わず効果的な支援策を考えるべきだ。ただ事実として、日本において自殺する人の多くが男性であるという点を指摘しておきたい。
2020年の日本の自殺者数は2万1081人、そのうち男性は1万4055人、女性は7026人で、男性が全体の66.7%を占めた。
2019年の自殺者数(2万840人)に占める男性の割合は、68.6%(1万4290人)、2018年は自殺者数(2万1321人)のうち男性が占める割合は60.5%(1万4826人)だった。
実に約7割の自殺者数は男性なのだ。そして前述したとおり、中高年の自殺が多い。自殺統計から見えてくるのは、中高年男性が多く自殺しているという事実だ。

こうした自殺や孤独の重症化を防ぐには「責任ある立場の人ほど周囲に頼りづらい」という点について理解し、対処していく必要がある。
これまでの男性優位社会では、男性が強く抱えてきた「責任ある者は強くあらねばならぬ」「部下に弱みを見せてはいけない」といったスティグマがあるということだ。

男性優位社会で、責任ある立場につくのは多くが男性だった。女性は家庭に押し込められ、個性と能力の発揮できない状況を強いられながら育児家事をひとりで担う一方で、
男性は「一家の大黒柱」としてのプレッシャーを抱えて企業戦士としてモーレツに働いてきた。もちろん、専業主婦/主夫もまた孤独を抱えて苦しんできた事実はある。
ただ、「悩みを吐き出すことは弱い人間である」といったスティグマ的思考のもとで、役職が上がるほど、周囲に相談もできず、ひたすら孤独に耐えてきた男性たちがいたことも事実だろう。
そして多くの男性が自ら命を絶ってきた。

責任ある立場の人が相談しづらい環境を放置した結果、自ら命を絶つ。中高年男性の自殺にはこのような背景が多いと前述したが、彼らがどのような苦しみを抱えているのかを具体例から見ていこう。
Cさんという40代の男性から相談があった。Cさんは、「いますぐ命を絶ちたいです」という言葉から相談が始まる、極めて自殺リスクの高い相談者だ。
私たちの相談窓口を訪ねる中高年男性の多くは、悩みを抱えて逡巡したあげく、あなたのいばしょ(※大空氏が代表を務める24時間対応、無料・匿名のチャット相談)にたどり着く。
その時点で、強い自殺念慮を抱えている場合がほとんどだ。私たちは、まずはCさんが、安全な状態にいることを確認したうえで、相談を開始した。

相談過程で明らかになった、Cさんが最も悩んでいることは、会社内での人間関係だった。Cさん自身は管理職で責任ある立場だったが、その責任ゆえに、部下とどのように接していけばいいのかわからなくなってしまったのだという。
さらに、Cさんの上司からのパワーハラスメントもあり、社内のほぼ全方位にわたる人間関係で悩みを抱えている状態だった。社内に自らの心情を吐露できる人はひとりもおらず、会社に通うための電車に乗り込むことさえストレスを感じるようになった。

家族はいるが、家庭では自らの弱みを吐き出せないという。まさに「父・夫として強くあらねばならぬ」といったスティグマを抱えて苦しんでいたといえる。
そして会社では部下にも悩みを打ち明けられず、上司からは追い詰められる。常に心が張り詰めた極限状態のなかで、Cさんが導き出した答えは、自ら命を絶つということだった。
だが、命を絶とうと考えたが「勇気が出ず」、偶然インターネット記事で見つけた私たちの窓口を訪れたという。

https://diamond.jp/articles/-/316841