またも捜査機関の証拠改ざん事例

2023年7月4日(火)|Category:刑事弁護,研究活動
【1】
某MLで話題沸騰(かどうかは知らないが少なくとも関心を集めた)の、名古屋地判2022年10月5日である。国賠事案ではあるものの、要するに一方当事者がパトカーであるという単なる交通事故事案であった。
判タ2023年7月号(通巻1508号)掲載。

【2】
さて件名であるが、この事案では、本訴被告である愛知県側のパトカーが赤信号進入にあたり、サイレンを鳴らしていたかが争点の一つであった。サイレンを鳴らしていなければ緊急自動車扱いされないからである。
被疑者でもあった運転手警察官は、事故翌日の実況見分でサイレンを鳴らしていたと主張した。また、パトカーのドラレコには音声ファイルが無かったが、愛知県側は、監察官室配属の警察官にして被告側指定代理人でもあった人物名義の報告書で、「録音機能は使用していなかったので最初から音声ファイルは無い」と主張した。

ところが、裁判所がバイナリデータを確認してデータが「整いすぎている」と疑問視したことから、裁判所に於いて愛知県側に人為的な消去等について釈明を求めたところ、愛知県側はサイレンを鳴らしていなかったと認めるに転じたという。ついでに、提起済みの反訴も取り下げて、0:100を争わない姿勢に転じたという経過である。

裁判所は、判決中で異例にも上記の経緯に言及し、愛知県側の応訴態度を批判して慰謝料の増額事由、更に訴訟費用負担においても考慮した(詳細は判決文に当たられたい)。

判タの解説記事では、愛知県側が「誤った内容の報告書を作成してしまった」等と穏やかに批判しているが、誰がどう考えても、被疑者警察官が自己弁護のために嘘をつき、その後、「愛知県警内部のどこかで、誰かが」音声ファイルを人為的に消去したに決まっているではないか、と思う。追及されないために、100ゼロを認め、反訴も取り下げているが、公金を使った訴訟において、愛知県警の不祥事をもみ消すために、このような逃げを打つことは容認されないだろう(是非、オンブズマンに動いて欲しい)。
というよりも、被疑者警察官を庇うために音声ファイルが消去されている可能性が高いのだから、証拠隠滅罪に該当する出来事であり、許す許さないの次元では無いのでは無いように思われる(是非、名古屋地検特捜部に動いて欲しい)。
翌日の虚偽主張だけならまだしも、その後の組織的な証拠隠滅行為、そしてそれを隠して情を知らない代理人弁護士をして虚偽の主張を展開させ、更には反訴提起までしていたというのだから恐れ入る(後者は、有利な判決を騙取して原告側に金銭を支払わせようとしたものであるから、概念的に詐欺罪に該当しよう)。またも、捜査機関の証拠改ざん事例が積み重ねられたと言うことで、決して良くないことではあるが、裁判所の見る目を変える上では歴史的意味があると言えようか。

https://www.kanaoka-law.com/archives/1433

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/551/091551_hanrei.pdf