旧日本海軍、乱数表を使い回し 山本巡視電は指示に反する運用 米が暗号解読、長官機撃墜・機密解除史料
2023年08月04日08時00分

 太平洋戦争中の1943年4月18日、前線巡視に向かう山本五十六連合艦隊司令長官の搭乗機が撃墜され、長官が戦死した事件で、その2カ月前に旧日本海軍が異なる暗号書の間で乱数表の使い回しを命じていたことが分かった。機密解除された米軍史料を収集した戦史研究家の原勝洋さん(81)が、時事通信の取材に明らかにした。長官の行動予定を記した暗号電が、乱数表変更の指示に反する形で作成されたことも判明。暗号は米側に正確に解読され、撃墜を招く結果となった。

 旧海軍の暗号を巡り、機密保全上、極めて問題のある使用法を中央が命じ、出先も不適切に運用したことが文書で裏付けられたのは初めて。米国立公文書館で史料を収集した原さんは「暗号部署が混乱し、長官巡視電で乱数表の誤用があったのではないか」と話している。

 旧海軍の暗号は、「呂1」「波1」などと名付けられた暗号書と、それらと組み合わせて使う「第1」「第2」などの乱数表で構成。呂1、波1は共に戦略暗号に属し、秘匿の強度が高いとされていた。

 新たに確認された史料は、いずれも43年2月11日に旧海軍中央から全艦隊司令長官、海軍基地、各通信隊へ宛てた暗号電の解読カード2通。無線傍受の拠点となった米海軍通信部のハイポ諜報班(ハワイ)が解読した。

 1通は、「2月15日、呂1乱数表第2の使用を停止。乱数表は、波1乱数表第2を呂1暗号の使用規程に沿って使うよう変更」と記載。呂1と波1の暗号間で、乱数表の使い回しを命じている。

 もう1通はそれと対を成すもので、「2月15日、波1暗号の乱数表は第3とせよ」と書かれており、使い回しの元になった暗号書の乱数表を第2から第3に変更するよう指示。発信元はかっこ書きで、「軍令部または東京通信隊」と訳されている。

 呂1は旧海軍のすべての部隊を、また、波1は潜水艦を除く全艦船と主要基地をそれぞれ対象としていた。

 長官の行動予定を記した巡視電の暗号作成には、波1乱数表第2が使われたことが、機密解除された米史料から分かっている。新たに、波1暗号の乱数表を第3に変更するよう指示されていたことが判明したことで、巡視電はこの指示が守られず、使い回された乱数表が再び使用されたことになる。

※略※

https://www.jiji.com/sp/article?k=2023080300722&g=soc