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むしろ日本の反対が緊張をもたらしている?
 サウジアラビア空軍で運用されているユーロファイター「タイフーン」の後継機は、GCAP計画で開発される有人戦闘機が最有力候補と目されています。

 しかし、日本には防衛装備移転三原則があるため、現状で戦闘機の輸出は不可能。そこで政府与党内ではサウジアラビアなどへの輸出を念頭に置いて、GCAP計画で開発される有人戦闘機を開発参加国以外にも輸出可能とするため、防衛移転三原則の見直しを含めた議論が行われています。

 ただ、サウジアラビアはもっと踏み込んだ要求をすることも予想されます。同国は過去、国内の航空防衛産業を育成する目的で、ユーロファイター「タイフーン」72機のうち46機の最終組み立てを同国内で行う計画を立てていました。
この計画は諸事情により実現しませんでしたが、サウジアラビアが自国の航空防衛産業を育成したいという想いは衰えておらず、GCAP計画で開発される有人戦闘機を導入するとすれば、単なる輸入国以上の存在になることを希望するのは、当然と言えるでしょう。

 8月12日付の朝日新聞デジタルはイギリス国防省関係者の話として「サウジアラビアはイギリスの戦略的なパートナーの一つだ。我々はサウジアラビアを戦闘機計画における重要なパートナーと見ており、できるだけ早期に進展できるよう取り組んでいる」と述べたと報じています。

 その一方で日本は、前出の通りサウジアラビアのGCAP計画への参画に反対しており、フィナンシャルタイムズは、日本の反対がGCAPの枠組みに緊張をもたらしているとまで報じています。

サウジ参画ならば多額の資金 受け入れれば反発?
 サウジアラビアはイスラム教シーア派などへの武力を行使しており、現状の防衛装備移転三原則では、防衛装備品の輸出ができない「紛争当事国」ともみなされます。

 単純に防衛装備品を輸出することさえ困難なサウジアラビアをGCAP計画に迎え入れることになれば、国内世論などから反発を受けることは必至です。日本はその反発によって開発計画に遅れが生じることを懸念して、サウジアラビアのGCAP計画への参画に反対しているとも言われています。

 他方フィナンシャルタイムズは、サウジアラビアがGCAP計画に参画することになれば、同国から多額の開発資金が投入されると報じています。

 現在の日本はF-2戦闘機を開発した1980〜90年代に比べれば経済状況が悪く、国内で新戦闘機を単独開発するだけの財政的な余裕がないことも、日本がGCAP計画に参画した大きな理由の一つです。

 F-2の退役開始が予想される2035年までに次期戦闘機、すなわちGCAP計画で開発される新しい有人戦闘機を航空自衛隊に就役させることはもちろん大切ですが、経済状況の悪化や財政難という、日本がGCAP計画に参画することになった理由を棚に上げ、開発資金を得る上で大きな助けとなりうるサウジアラビアの参画を拒絶し続けるのは得策ではないと筆者は思います。
【了】