1985年の「現代」で暮らすマーティがタイムスリップしたのは1955年。60年代と70年代を思い切って完全にスキップしています。タイムトラベルものなのだからそういうもの、と言ってしまえばそれまで。一言で片付けてしまっても良いですが、当時はカルヴァンクラインなんて無かったよね……なんて「カルチャーギャップ」を楽しむのであれば他の時代でも良かったはずです。

50年代後半から60年代は黒人公民権運動がさかんだった頃。アメリカを中心に、世界中が大きな「渦」を巻き起こして前進に向かっていた時代です。キング牧師やマルコムXなどが先頭に立って、今の時代の礎を築いてきました。

そんな時代をこの映画はまるっとすっ飛ばしているのです。

デロリアンで30年前にひとっ飛び。寄り道するどころか、窓から景色を楽しむ余裕すらありません。60年代は人種主義的な価値観にひびが入り、白人にとっての特権階級にきずがついた時代です。BttFはそんな60年代より前、つまり人種差別が残り、階級に大きな差がある時代にジャンプしたのです。

ロバート・ゼメキスは、白人の権威性が揺らぐきっかけとなった時代から目を背けたかったのです。――と、このように力強く断言すると、なんだか知覚過敏な詭弁のように思われてしまいそうですが、奥まで奥まで深掘っていくとこの疑念が確信に変わっていきます。
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