https://news.yahoo.co.jp/articles/dd7c7fa393ea0aa3501899f18ddb15cb5cefc79e
 もし、生物学的な年齢を巻き戻せるとしたらどうだろう。日に日に老いていくのではなく、若返っていくとしたら?
米ハーバード大学医学大学院(HMS)の研究チームが先ごろ発表した研究結果は、この考え方が思いのほかSF的ではないことを示唆している。

英科学誌ネイチャー・エイジングに掲載されたボーハン・チャン博士らの研究では、若いマウスと長期間にわたり結合された老齢マウスが「若返り」を始め、
同世代のマウスと比べて最大9%長生きすることを発見した。
まだ初期段階の研究とはいえ、加齢と長寿の未来に関する刺激的な示唆に富む結果だ。

■パラバイオーシス
研究チームは「パラバイオーシス」と呼ばれる実験技法を用い、年老いたマウスと若いマウスを結合した。
これは、非常に複雑な輸血のようなものだ。
通常の輸血では片方のマウスから血液を採取してもう一方のマウスに注入するが、パラバイオーシスでは2匹のマウスを外科手術で接合し、
リアルタイムな輸血を継続的に行う。

パラバイオーシスで結合された動物は、単に血液を交換するのではなく、1つの生理系を共有し発達させる。
血液からホルモンまであらゆるものを交換し合いながら、いわば融合するのである。

研究チームは、若いマウス同士、老いたマウス同士、若いマウスと老いたマウスをそれぞれ結合して対照実験を行い、パラバイオーシスの効果を比較検証した。
結合期間中は各マウスの肝臓と血液を分析し、加齢関連の各種バイオマーカーを調べた。
マウスは結合状態を丸3カ月間維持してから外科手術で分離し、1カ月間の回復期間を置いた後に生理学的データを記録した。
数匹のマウスは、パラバイオーシスが寿命に及ぼす影響を理解するため自然死するまで自由にさせた。

■生物学的年齢と実年齢
人は誰もが年をとる。地球が太陽の周りを1周するごとに、1年分の歳を重ねる。
しかし、誰もが同じスピードで年をとっているわけではないことが次第に明らかになってきた。
実年齢が同じ2人でも、「生物学的年齢」が大きく異なる場合があるのだ。

実年齢は単純に誕生日を迎えた回数を指すが、生物学的年齢は血液、臓器、遺伝子のレベルでの老化を示す指標であり、その人の「本当の」身体年齢だ。
心臓病やがんなど、加齢に伴う疾患を発症するリスクは生物学的年齢に基づいて決まり、それは実年齢より低いこともあれば、高いこともある。

■若々しく長生きする
生物学的年齢の測定方法はいくつかあるが、最も正確な手法の1つは「エピジェネティック時計」を用いるものだ。
スティーブ・ホルバートが2011年に発見した手法で、DNAのメチル化として知られるプロセスに基づいている。
※略
このパターンが分かれば、DNAのメチル化を時計のように読み取ることができる。

■若々しく長生きする
ボーハン・チャンらの研究チームは、エピジェネティック時計を使って、パラバイオーシスがマウスに与える影響を調べた。
すると、若いマウスと結合された老齢マウスでは、老化のスピードが遅くなるのみならず、若返りの兆候さえ確認できた。
DNAメチル化時計が示唆する生物学的年齢は常に実年齢よりも若く、最大で30%低かった。

この現象は、老齢マウス同士を結合したパラバイオーシスでは見られなかった。
また、血液を共有しない形で若いマウスと結合した老齢マウスでも確認できなかったため、
若いマウスと結合されたことで運動量が増え、エピジェネティック年齢が若返った可能性は排除された。

重要な点は、老齢マウスの生物学的年齢の変化が、若いマウスから切り離された後も持続したことである。
しかも、その変化は血液だけにとどまらず、筋肉組織、肝臓、神経系にも及んだ。
生物学的年齢の若返りは寿命の延長とも相関しており、若いマウスと結合された高齢マウスは、老齢同士で結合されたマウスと比較して6~9%長生きした。
遺伝子発現の変化も、寿命介入で観察されたものと類似しており、加齢の過程で通常見られる変化とは対照的だった。

■まとめ
この刺激的な研究では、年老いたマウスを若いマウスと結合することで寿命を延ばし、老化を遅らせられることが示された。
この方法の効果は分離後も持続する。老齢マウスは寿命が延びただけでなく、臓器の健康状態も改善の兆候を示した。
実年齢は不可逆的だが、生物学的年齢はますます可逆的なものになりつつあるようだ。



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