処理水放出、反対意見に触れず 「副読本」の問題点は 識者に聞く
聞き手・笠井哲也2023年9月14日 11時00分

 東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出をめぐり、教育の場で、漁師らの反対意見が「不可視化」されている――。原発事故後、「放射線副読本」を研究してきた福島大の後藤忍教授(環境計画)は指摘する。いま、何が起きているのか聞いた。

 ――原発事故後、文部科学省が発行する小中高生向けの「放射線副読本」に注目されてきました。なぜですか。

 「自分自身もどこか信じていた『安全神話』がなぜ広まったのかを考えた時、副読本などを使った国からの情報提供が、認識の形成に大きく影響していただろうと考えました。自分自身の反省を踏まえ、それをきちんと記録し、指摘しようと思ったんです」

 「例えば原発事故前に作られた2010年版の副読本は明らかに偏っていて、虚偽もありました。わかりやすいのが、火力発電と原子力発電を比べたページです。火力発電所は怖い表情で、石炭をばくばく食べている。排出される二酸化炭素は無色透明なのに、わざわざ黒い煙で描いています。それに対して原子力発電所は優しい顔をしています。公平に情報を載せるのであれば、発電の結果出てくる廃棄物も書くべきですが、放射性廃棄物は書かれていない。別のページでは、原発は、地震や津波にも耐えられるよう設計されていて十分な余裕を持つ、とまで書かれていました」

 ――処理水について、副読本はどのように説明しているのでしょうか。

 「14年版では、廃炉の課題として『原子炉からの核燃料の取り出しや汚染水の問題』などと記されていました。それが18年版になるとなくなり、事故を乗り越えるための課題を『考えてみよう』と、読み手に丸投げされる形になります。21年版では『廃炉に向けた課題』という欄が加わったのですが、課題がなぜか処理水の海洋放出に絞られています。廃炉で一番重要と考えられる溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しには触れていません。内容も政府見解を一方的に伝えるもので、漁業従事者などの反対意見は載っていません」

 「副読本の『はじめに』には、『一人一人が事故をひとごととせず、真摯(しんし)に向き合い』、考えるきっかけにとあります。放出で一番影響を受ける当事者である漁業従事者の声を載せないことは、それと矛盾しているのではないかと思います」

※以下ソース※

https://www.asahi.com/articles/ASR9F77DPR95UGTB008.html