近年、家庭の味の原点が見えなくなっているのではないか? と思わせる傾向がますます強まってきた。そう思う理由は二つある。

 一つ目は、合わせ調味料(シーズニング)の隆盛である。食のセレクトショップに行けば、多種多様なオリジナル合わせ調味料のビンが並んでいる。〇〇の素の類も合わせ調味料なので、スーパーに並ぶ種類もますます多彩になったと言える。ガパオやソムタムなどのアジア料理、洋食、和食に至るまで、これを入れれば味が決まる、というシーズニングミックスのコーナーも定着した。

 SNS出身の人気料理家たちのレシピ本には、めんつゆやマヨネーズなどの合わせ調味料と基礎調味料をいくつも組み合わせ、「やみつきになる」濃くて複雑な味を推奨するレシピがたくさんある。

二つ目の要因は、自分の料理よりテイクアウトの総菜など外の味を基準にする、台所の担い手が増えたと思われることだ。そうした主婦の存在がクローズアップされたのは、2003年に刊行され話題を集めた『変わる家族 変わる食卓』(岩村暢子、勁草書房)だった。

 レシピの世界で、自分の味を見失った人が増えたかもしれない、と思わせたのは調味料Aが氾濫する少し前、2000年に『きょうの料理』(NHK)で、「割合で覚える」料理の基本企画がヒットしたことだ。

 この企画は、京都の日本料理店「菊乃井」主人の村田吉弘さんが、醤油などの調味料の量を「大さじ〇杯」ではなく、「1:1」などの割合で決めよう、と紹介した企画でヒットし、その後も2回村田さんが同様の企画で登場したほか、他の料理人も同様の企画に出ている。つまり、2000年代初頭にはすでに、自分の味に自信がない人たちが増え始めていたのだ。

https://news.yahoo.co.jp/articles/67f1b37920bcd52b0cffbe07821f8c04b71f274e