突然ですが、あなたは「わび・さび」がなにか説明できますか? 日本の文化と言えば「わび・さび」と言われています。

 番組で日本人に街頭インタビューすると、ほぼ全員が「いえ……よく分からないです」と戸惑いました。日本に来ている外国人に訊くと、「シンプルであること」「なにも持たないこと」「少ないことに幸せを感じること」「わび・さびは日本文化の中心です」と次々に答えました。

 僕はイギリスの演劇学校でクラスメイトのスティーブから「わびとさびはどう違うんだ?」と質問されて悶絶したことがあります。『広辞苑』をひけば、「わび」は「閑寂な風趣。茶道・俳諧などでいう。さび」と出ています。「さび」と言ってしまってるのです。一方、「さび」は「古びて趣のあること。閑寂なおもむき」と書いています。あなたはこの違いが分かりますか? 私はまったく分かりませんでした(『広辞苑』ともあろう辞書が、「わび」を「さび」と言ってるんですから、大変なことです。だったら、なぜ、「わび・さび」とわざわざ別に言うのか。謎です)。

 番組では、あなたの感じた「わび・さび」の写真を撮ってきて欲しいと外国人に頼みました。

 まず、チリ人女性は、カウンタースタイルで細かく一人用に衝立で仕切られたラーメン屋さんの写真を持ってきました。『一蘭』という博多発のチェーン店です。「店員の姿が見えないのは能の舞台を見ているようだし、誰とも話さず、私とラーメンだけの空間が、わび・さびなんです」と説明しました。よく分かりませんでした。でも、日本文化が大好きなイギリス人男性が激しくうなづきました。

 そのイギリス人男性が選んだのは、家具やベッドがない和室の空間でした。寝る時に布団を敷き、ご飯を食べる時にちゃぶ台を置く。そして、終わればすべて取り去り、なにもない畳の空間になる。それが「わび・さび」だと彼は力説しました。もともと、彼はロンドンで谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』の英訳を読んで感動して「わび・さび」を感じたというのですから、筋金入りです。

 フランス人男性は「玉子かけご飯」に「わび・さび」を感じると言いました。「フランス料理は調味料を多用するけれど、日本料理はシンプルです。これは、ご飯と玉子と醬油だけなのに、美味しいです。シンプルなのに美味しい。ここに僕は『わび・さび』を感じるんです」と言いました。ちょっと説得されかけました。

 オーストラリア人女性は、ホームタウンの町に「WABI SABI(わび・さび)」という名前のレストランがあって、どういう意味なのと日本人の友達に訊いたけれど、誰も答えられなかったと言いました。彼女は、日本のアニメが大好きになって日本に来たオタク(英語では、「geek〈ギーク〉」または「nerd〈ナード〉」と言います。オタクと同じで、あんまりポジティブな意味ではありません。人から言われて、その通りなら、「とほほ」な微笑みを、違う場合はムッとして「違うよ」と言い返す単語です)でした。

 間違いなく、世界で「わび・さび」は有名で、日本人より外国人の方が意味をたくさん知っている単語でした。

https://news.yahoo.co.jp/articles/f93a926ad243fdc2558fdac6e2791e3a47f870e8