歴史的なインフレに苦しむ南米アルゼンチンで新たな大統領が誕生する。過激な言動を繰り返す経済学者で下院議員のハビエル・ミレイ氏(53)。
ら「極右」「アルゼンチンのトランプ」と報じられるが、その公約も異色だ。自国通貨を米ドルに切り替え、中央銀行の廃止を掲げているのだ。「物価の番人」たる中央銀行がなくなると、何か起こるのか。(岸本拓也)

ボサボサ髪がトレードマークのミレイ氏は首都ブエノスアイレス生まれ。ベルグラノ大で経済学を学び、企業コンサルタントなどを経て、2015年ごろから経済評論家としてテレビ番組に出演した。辛口の政治批判が人気を博し、21年に政界へと転じた。
 大統領選では当初、2大政党連合の候補に次ぐ3番手だったが、8月の予備選で最多票を集め、一気に注目が集まった。その主張は過激で、麻薬や臓器売買の合法化などを唱えていた。

 中でも注目されたのが経済政策だ。自国通貨ペソをドルに切り替える「ドル化政策」や、金融政策を担う中央銀行の廃止を掲げた。選挙戦では自身の顔が印刷された大きな100ドル札を作成。歴代政権の放漫財政を切るという意を込めて、集会でチェーンソーを振り回したこともある。

 アルゼンチン中央銀行は政策金利を大幅に上げているが、物価高に歯止めはかからず国民の不満が高まる。こうした現状を背景に、ミレイ氏は「地球上に存在する最悪のゴミ」と中央銀行の廃止を掲げ、ドル化を訴える。


 ニッセイ基礎研究所の上野剛志氏は「通貨をドルにしてしまえば、為替の変動に悩まされることはなくなる」としつつ、「自国の金融政策を放棄し、すべてFRB(米連邦準備制度理事会)の決定に従うことになる。
自国の景気が悪いときに、金利を下げられないなど弊害も大きい」と話す。
 ドル化するには政府が国内で流通する分のドルを用意する必要がある。しかしアルゼンチンの外貨準備高は事実上マイナスになっているとみられ、上野氏は「十分なドルを調達できるのか」と実現性を疑う。
「最後の貸し手」である中央銀行がなくなると、資金不足となった自国内の民間銀行などを救済できなくなり、金融システムの崩壊や不況を招く恐れもあるという。

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