「バインミー」人気拡大中 コロナ禍が追い風、日本独自アレンジも

 ベトナムのサンドイッチ「バインミー」の人気が日本国内で高まっている。在日ベトナム人の増加でベトナム料理を提供する店が増えたのに加え、スマートフォンを操作しながらでも食べられる手軽さがテークアウト需要にマッチし、コロナ禍が追い風となった。群馬県内でも増えるバインミー提供店を訪ねると、具材と同様に多種多様な店の顔が見えてきた。

 「味の濃いベトナム南部の味付けにしています。私は中部の出身ですが、シンプルな味の北部のバインミーよりも南部の味が好みだったので」。伊勢崎市のベトナム料理店「デリイチ」店主の吉田尚美さん(48)はこう話す。オープンは14年前で県内のベトナム料理店としては老舗だ。

 吉田さんは日本在住のインドシナ難民の男性と結婚するため1999年に来日し、その後日本国籍を取得した。開店当初は客の比率はベトナム人と日本人が半々だったが、現在では日本人が7割という。

 同店の「レバーパテハムバインミー」(税込み750円)は、硬めのパンに鶏レバーのパテ、ニンジン、トマトなどの野菜を挟んだ。レバーは生臭さを感じず、唐辛子の辛さがアクセントになっている。「本場の味を再現していますが、苦手という人はパクチー抜きも可能。好みの味を言ってください」

 バインミーはフランス植民地時代にフランスパンが普及し、それをサンドイッチ風に食べるようになったのが始まりだ。具材は肉や魚などさまざまで、入っている野菜も豊富。西洋とオリエンタルの融合は、どこかおしゃれなイメージで東京など大都市圏を中心に提供する店が増えている。

 普及や情報発信を目的に2022年8月に発足した「日本バインミー協会」(東京都)の越本南央也代表(41)によると、日本では00年前後からバインミーが食べられるようになった。キッチンカーなども合わせると現在は約500店が提供しており、10年前に比べ約4倍に拡大しているという。

 越本さんは「現地に近い味の店がある一方で、サバカレー味など日本ならではのアレンジメニューを出す店もあり、二極化している。このローカライズが人気を後押しし、エスニック料理やパクチーが苦手な人にも食べやすくなってファンを増やしている」と国内のバインミー事情を解説する。

 越本さんはバインミー店が増加する注目の地域として東京、神奈川、愛知などの大都市圏のほか、人口当たりのベトナム人比率の高い群馬を挙げる。

 群馬大桐生キャンパス(桐生市)近くの「ベトナムサンドイッチDZO DZO(ヨーヨー)」は、県内では珍しいバインミー専門店だ。ベトナム南部出身のグエン・ティ・トウエット・マイさん(35)がテークアウトに特化し、18年2月に開店した。

 自ら手作りしたパンで、現地に近い味と日本風アレンジの2タイプのバインミーを提供する。アレンジメニューの一つが「サバ缶バインミー」(同300円)。魚臭さはなく鶏肉のような食感が、硬めのパンにマッチする。現地にも魚の缶詰を使ったバインミーはあるが日本では入手できないため、サバの水煮缶を利用してベトナム風の味付けにすることを思いついた。

 バインミーの店を開いた理由をグエンさんはこう語る。「家族との時間を大切にしようと自宅の一角を利用して開きました。お客さんのほとんどが日本人。料理を知ってもらうことで、少しでもベトナムに関心を持ってもらい、旅行で訪れてくれたらという思いがあります」
https://mainichi.jp/articles/20240215/k00/00m/100/125000c