アムステルダム国立美術館のアジア館に展示されている仁王像。その故郷は島根県仁多郡奥出雲町にある岩屋寺だ
https://i.imgur.com/9901Swv.png
https://globe.asahi.com/article/15144102


2004年、アジア館のチーフキュレーター、メノー・フィツキさんは、京都の古美術商でこの仁王像を見つけた。
「2メートルを超えるサイズ感が良く、美術館にふさわしい作品だと思いました。威厳と迫力も素晴らしい。
ヨーロッパでは、日本美術というと禅の静的なイメージのものばかりと思われがちですが、
このようなダイナミックな芸術もあることを紹介したいと思っていました。2007年、2億円で購入しました」

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昔の岩屋寺のことをよく知る長老とお話をする機会に恵まれた。
子供の頃から親しんできた仁王像がアムステルダムにあることをつい最近知ったと言うので、アジア館の目玉になっていると伝えて、持ち歩いていたPCにあった開眼供養式の写真を見せた。

「え!2体ともアムステルダムにあるのかい?」

驚いた長老の顔を見た時のことは今でも忘れられない。

「仁王さんは、昭和50(1975)年前後に忽然と姿を消してしまった。二束三文で売り払われたって噂だよ。それからはずっと、どこに行ったのか誰にもわからなかった。
仁王門の中にあった時は暗かったし、わしらはいつも下から見上げていたから、こんな風に正面から全身を見たのは初めてだ。返してほしいとは思うが、ここにあっても誰も管理はできない。
アムステルダムで大切にされるのがいいんだろうねぇ」

そうため息交じりにつぶやくと、町民との溝が深まり財政難に陥った末、財宝を売り尽くしたあげくに土地も手放して廃寺となったという岩屋寺の“黒歴史”について話してくれた。
なぜ皆が口をそろえて「あそこへは行くな」と言ったのかが、ようやくわかった。

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