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ティラノサウルスから走って逃げられる? 思ったほど俊足ではない論文も 科学者の見解は【人気の物語を科学で検証】
2/19(月) 10:01配信

ナショナル ジオグラフィック日本版
ジープが追いかけられる『ジュラシック・パーク』の名場面について考えた

ティラノサウルス・レックスは、多くの人が思っているほど俊足ではない。だとしたら、走って逃げられるだろうか?(PHOTOGRAPH BY CORBIN17, ALAMY)

 ここ数十年で爆発的に増えたSF映画で、根強い人気を誇るタイトルのひとつに『ジュラシック・パーク』シリーズがある。琥珀の中の蚊に残っていた血から恐竜が現代によみがえる近未来的な設定に加え、恐竜たちの描写はとてもリアル。特に肉食恐竜のティラノサウルスなどは大迫力だ。ジープがティラノサウルスに追いかけられる1作目の名場面で、手に汗を握った人は多いはず。でも、ちょっと待ってほしい。あんなに巨大な恐竜が、本当に自動車のような速さで走れるものだろうか?

 このシーンをよく見ると、走るティラノサウルスの足は常にどちらか一方が接地している。これは、人間で言えば走っているのではなく、競歩だ。巨体のティラノサウルスが飛ぶように速く走る描写には違和感があったのかもしれない。実際のところ、ティラノサウルス・レックスは広く信じられているほど俊足ではなかったことが、学術誌「PeerJ」に2017年に発表された論文で明らかにされている。

 では、ティラノサウルスの足の速さはどのぐらいだったのか。もしもティラノサウルスに追いかけられたら、人は逃げられるのだろうか。

 それまで、ティラノサウルスの最高速度の推定には、時速18キロから54キロまでばらつきがあった。世界最速の人間の時速は約37キロなので、ティラノサウルスがそれより速ければ、人間は走っては逃げられない。

 古生物学者たちはずっと、ティラノサウルスの骨格の一部分だけを取り上げて、ティラノサウルスの足は速かった、いや遅かったと主張してきた。例えば、ティラノサウルスの脚とダチョウの脚を表面的に比較して、体長12メートルのティラノサウルスもダチョウのように足が速かったに違いないと結論付けた。

 対して、論文では、全体像を解き明かすべく、ティラノサウルスの約7トンという体重と骨にかかる力、そして骨の特性を加味した新しいモデルを開発した。そうやって精度の高い計算結果を導き出したところ、ティラノサウルスの走る速さは最高でも27キロ前後という結果が出た。それ以上になると、足の骨が粉々に砕けてしまっただろうという。

 つまり、ティラノサウルスから走って逃げることは可能だ。論文に書かれているように、ティラノサウルスは白亜紀の恐竜たちの中では優秀なアスリートというわけではなかったのだ。ただし、同じく「PeerJ」に2019年に発表された筋肉の量と働き方を推定した論文によれば、ティラノサウルスは近縁の肉食恐竜より敏捷で、狩りに有利だった。脚が長くて身軽な若者は特に素早かったというから、若くて元気ならいい勝負かもしれない。