復興住宅で際立つ高齢化、「孤独死」553人…限界集落化目前に「こんなはずではなかった」
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東日本大震災の発生から、まもなく13年になる。岩手、宮城、福島3県に約3万戸整備された災害公営住宅(復興住宅)で、
入居者の高齢化率(65歳以上の割合)がコミュニティーの維持困難な「限界集落」の目安とされる50%に近づいている。
岩手、福島では空き家が1割を超え、「孤独死」した人は3県で少なくとも553人にのぼる。被災地で何が起きているのか。被災地の現在(いま)に迫った。

岩手県陸前高田市の復興住宅「今泉団地」(61戸)の集会所で1日、団地自治会長夫婦と80~90歳代の女性4人が、高齢者向けの体操に励み、童謡を歌って楽しんでいた。
週1回開かれ、毎回参加している木下文子さん(91)は「皆さんに会えて楽しい」と満足げだ。

女性4人は団地の住民ではない。体操は団地住民の健康維持と地域住民との交流の場だったが、いつしか子や孫と暮らす地域の高齢者ばかりになった。

団地は2017年4月に入居が始まった。自治会長の佐藤章さん(82)は「みんなで手を取り合い、震災前の活気ある姿に戻ると信じていた」。
だが、間もなく高台に宅地が造成されると、退去する仲間が相次いだ。89人が住む団地の高齢化率は48%。独居者も多い。自治会長のなり手もいない。「こんなはずではなかった」とこぼした。

復興住宅は、津波や原発事故の被災者のために県や市町村が整備した。3県に2万9512戸ある。
23年の3県の高齢化率は31・5%だが、復興住宅に限ると44・3%。復興住宅に住む65歳以上のほぼ2人に1人は一人暮らしだ。
ただ、岩手県の担当者は「復興住宅は不足なく整備する必要があったが、当初から現役世代などが自力再建して退去することは想定していた」とする。現状は仕方ないとの立場だ。

3県の空室率は9%で、2%の全国の公営住宅(22年3月末)の4・5倍。復興住宅は被災者なら入居時の収入は問われないが、
4年目以降は原則、国の所得基準(月15万8000円)を超えると家賃が引き上げられる。現役世代が退去して高齢者が残る原因の一つとされる。
県などは被災者以外にも入居を認め、今では3県で18%の4857世帯が非被災者だが、空き住戸解消に至っていない。

孤独死も増えている。県や市町村によると、入居が始まった12年から19年の8年間は計245人だったが、20年から23年の4年間で計308人。
宮城県多賀城市の桜木住宅では自治会が高齢者宅などの「見守り活動」を行うが、副会長の菊池和弘さん(76)は「顔を見せない人やあいさつを返さない人もいる」と嘆く。

発生から29年になる阪神大震災の被災者らが入居する兵庫県の復興住宅でも高齢化が進み、23年11月末現在54・6%。
県警によると、23年の1年間で67人の孤独死が確認された。同県立大の馬場美智子教授(減災まちづくり)は「復興住宅で終(つい)の住処(すみか)として残るのは、
自力再建が難しい低収入者で、かつ高齢者だ」と話す。

能登半島地震では、高齢化が進む石川県奥能登地方で大きな被害が出た。珠洲(すず)市幹部は「復興住宅整備の話は当然出る。
この災害で若い人がどんどん離れており、住宅の高齢化やコミュニティーの問題はど真ん中の課題だ」と覚悟する。

復興住宅の調査を続ける岩手県立大の吉野英岐教授(地域社会学)は「入居者を増やすには、収入要件の緩和などが必要だ。
何らかの手を打たなければ空室が増え、高齢化で住民自治が機能しなくなり、住宅として孤立する。コストだけがかかる『負の財産』になりかねない」と警鐘を鳴らす。