東京大学、電気通信大学、昭和大学発達医療障害研究所などの研究グループは、自閉スペクトラム症の手指運動において、顕著な薬指優位の傾向があることを明らかにしました。

自閉スペクトラム症は、社会的交渉やコミュニケーションなどに特異な点が見られる発達障害の一種です。多くの研究が、身体的な特徴として、人指し指と比較して薬指が長い傾向があることを報告しています。薬指の長さは胎児期に浴びたテストステロン(男性ホルモンの一種)に影響を受けます。これは、自閉スペクトラム症が「極端な男性脳」であるとする仮説と整合性があり、注目されてきました。

研究グループは、形態的な特徴だけでなく運動機能にも薬指の特異性は現れるのではないかと考えました。そこで、高機能自閉スペクトラム症の患者20人の協力を得て、親指を除く4本の指で同時に力を出し、4本の指を合計した力で画面上のカーソルを動かすことを行ってもらいました。それぞれの指が出した力の割合を求めると、自閉スペクトラム症の患者では、健常(定型発達)者よりも、薬指で発生する力の割合が高いことが解りました(薬指優位)。運動における薬指優位は、形態的な特徴よりもむしろ顕著に見られました。また、薬指優位の個人差は、社会的交渉における臨床指標と関連がありました。

本研究は、自閉スペクトラム症で知られている運動の特異性や、運動機能と社会的交渉・コミュニケーションなどの認知機能の関係を理解する上で重要な手がかりになると考えられます。

「単純な運動に現れる特徴が、社会性を評価する指標と関連しているのは意外でした」と今水教授は話します。「今後は薬指優位と脳活動の関連を調べ、基礎的な運動機能と社会性を結ぶメカニズムを検討したい」と続けます。

本研究は、東京大学人文社会系研究科今水寛教授、電気通信大学の東郷俊太助教、昭和大学発達障害医療研究所の橋本龍一郎客員教授と板橋貴史講師らの共同研究成果です。



https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/articles/z0508_00005.html