夕闇を待つ河川敷に、ひっそりと立つプレハブ小屋の周囲には、人家はおろか、人影一つなかった。
ぐるりと見渡せば、広大な貨物ターミナルや下水処理場といった無機質な施設ばかり。
小屋の扉を開ける。
コンクリートの床に、つたがはっていた。しんと冷えた空気が出動服に容赦なく入り込み、体の芯まで染みてくる。
「こんなとこに、ほんまに社長がおったんかいな」。
捜査員は、戸惑いながら白手袋をはめた。

40年前の1984年3月21日夕、大阪府茨木市。
淀川水系の安威川左岸にあった水防倉庫で、兵庫県警の現場検証が始まった。
日本を代表する菓子メーカー「江崎グリコ」の江崎勝久社長(82)が監禁されていた場所だ。

https://news.yahoo.co.jp/articles/4c47e8433e942545cfb7236671a9c1cfdf67da6a