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半導体不足だけでない「新車の納期遅れ」の真実
販売店の現場で聞いたメーカーそれぞれの事情

クルマの納期(注文してから納車されるまでの期間)が、大幅に延びている。新型コロナウイルスが蔓延する前は、在庫車でなくても納期は1カ月〜1.5カ月程度だったが、今は2カ月で納車できれば短い部類に入る。今は多くの車種で3カ月以上、車種やグレードによっては半年を超え、1年以上になる場合もあるという。

なぜ、これほどまでに納期が長くなったのか。この“納期遅れ”の原因を探るべく、各メーカーのディーラーを取材した。

これまでの商談スケジュールが通用しない
まずはトヨタの販売店に尋ねてみると、以下のような返答を得た。

「今は売れ筋の車種でも納期が長い。例えば『ヤリス』は3カ月、SUVの『ヤリスクロス』は8カ月もかかる。全般的に納期が延びて、時期によっても変動するから、お客様に正確な納期を案内できない。2022年中旬時点で大半の車種の納期が遅れており、約15車種の受注を中断している」
ホンダでも「売れ筋のフィットでも、納期は4カ月前後を要する」とのことだ。納期が延びて一番困るのはユーザーだ。今は新車需要の約80%が乗り換えに基づくから、今まで使ってきた車両を下取りに出して新車を買う。

例えば今まで使ってきた車両の車検が9月に満了する場合、6月頃に商談を開始して7月に契約を行い、車検の満了前に納車できる段取りを組むのが一般的だった。ところが納期が6カ月に延びると、7月契約なら納車されるのは翌年の1月になってしまう。

下取りに出す車両の車検は9月に満了するから、4カ月の時間差が生じる。4カ月間のために車検を取るか、あるいは車両は下取りに出して、クルマを持たない生活をするか、という選択を迫られる。こうした状況になる場合にどう対応するのか。この点も販売店に尋ねた。

「今の販売店は基本的に代車を持たないので、車検を取ることを推奨する。お客様の負担が少ないように、車検整備はシンプルに済ませ、税金や自賠責保険料を支払ったコストは、愛車を改めて査定するときに上乗せする」

このように対応しても、スムーズに乗り換えられる場合に比べて、ユーザーの出費が増えることに変わりはない。納期の遅延は、もちろん販売店にとっても悩みのタネだ。
「車両の登録(軽自動車は届け出)が遅れると、お客様からの車両価格の入金も遅くなる。従って販売会社の経営にも影響を与える。また納期が大幅に延びた場合、失礼がないように、時々連絡を取る必要もある。納期が長いために車検を取り、そのまま乗り続けるお客様も多いから、受注台数も下がる。決算フェアは2月に始めたのでは3月の登録に間に合わず、その年度の決算に反映できない。そこで乗り換えの提案は、前年の12月から行っている」

以上のように、納期の遅延はユーザー、販売店、メーカーのすべてにとって解決すべき課題となっているのだ。では、なぜ納期は縮まらないのか。

一般の報道では、納期遅延の原因として新型コロナウイルスによる半導体不足が指摘されるが、メーカーの開発者に尋ねると原因はそれだけではないようだ。

「納期遅延の原因は、半導体の不足だけではない。例えば電気信号を伝えるワイヤーハーネスなどの部品、複数の部品によって構成される各種のユニットなどが、幅広く滞っている。しかも、供給の滞りは不定期に生じるから、計画が立てられない」


ワイヤーハーネスのイメージ(写真:トヨタ自動車)
納期遅延は、半導体を調達すれば済む問題ではないのだ。そして、新型コロナウイルスの影響が今後も継続すると仮定すれば、車両開発にも影響を与える。

たとえ高性能で割安なパーツでも、特定のメーカーしか製造できない場合、安定供給を考えると使いにくい。代用可能な汎用性の高いパーツが用いられ、性能やコストにも影響する。納期の遅延は、さまざまな課題を生み出すのだ。

グローバルでの需要が納期を狂わせるケースも
深刻化する納期遅延だが、その原因は新型コロナウイルスだけとは限らない。車種によっては原因がほかにもあり、そこに新型コロナウイルスが加わり、納期を一層遅延させているケースもある。その典型がトヨタ「ランドクルーザー」だ。
納期は日本車では最長の4〜5年とされ、この原因について開発者は、2021年の発売直後の時点で以下のように説明した。

「ランドクルーザーは生産総数の内、約50%を中東諸国に供給している。オーストラリアとロシア(今は輸出禁止)が各20%で、残りの10%が日本を含めたそのほかの地域に供給される。現行型は中東諸国の人気が高まった事情もあり、日本市場の納期が極端に延びてしまった」