長年の価格交渉とインフレを追い風に、ここ数年で価格転嫁が進んだもやし。一方で値上げは消費の手控えも生んでいる。工業組合もやし生産者協会の林正二理事長にもやしを含めた食品の値上げや消費の見通しについて聞いた。

――20年以上もやしの価格転嫁は進みませんでした。ここ3年では価格が9.8%上昇しています。

「もやしは天候に左右されずに作れる。年間を通じて価格が一定で、安売りの目玉にされやすい。もやし価格は1990年代半ばから下落傾向が続いたが、ここ数年で納品価格を1割くらい上げることができた。協会として生産者の窮状を訴えたことや世界的なインフレにより取引先も理解してくれるようになった」

「価格転嫁が出来てももやし事業は採算割れの状況が続く。値段が上がった分買い控えが発生して購入数量が1割くらい減ったからだ。もやしは『物価の優等生』ともいわれる。お客さんの目はシビアだ」

――円安や物流2024年問題などコスト高は続きます。

「原料や物流費は依然高い。円安で中国産の緑豆価格は3年前から1.3倍になった。人件費負担も重い。コスト上昇分全てを価格転嫁したい思いはあるが、取引先とは1円単位の攻防だ。満額回答は難しい」

――取引先のスーパーや消費者の価格上昇への意識は変わりましたか。

「賃上げの恩恵にあずかれない消費者は多いと思う。スーパーの安売りへのこだわりは強く、スーパー同士の競争も安売りに拍車をかける。弊社はカット野菜も製造しているがこちらの価格転嫁は進まない」

「強いのは愛されるブランド力を持つスーパーだ。目玉商品のアピール力が高かったり商品の並べ方にインパクトがあったりと差を感じる。取引先でもブランド力の高いスーパーでは価格転嫁が進みやすい傾向がある」

――もやしの未来をどう見ていますか。

「今のもやしはおよそ1袋20〜30円台くらいで、コストダウンには限界がある。協会ではこれを50〜60円払っても食べたい商品にしようと話している。人件費や設備投資など必要な投資は進める。新たに研究開発部門を立ち上げる準備もしている」

「同じく物価の優等生といわれる豆腐では、ある製造会社が開発した手軽に食べられるコンビニ販売の商品『豆腐バー』がヒットして新たな需要を生み出した。もやしでも何か新しい視点で商品を開発できないか。協会でも考えたい」

――食品全体の値上げや消費の動向はどうなると思いますか。

「値上げは一定期間は続くだろう。私たちが製造する千切りキャベツは長く『100円』の壁を超えられなかったが、最近ある大手スーパーで108円で売られていた。値上げの裾野は広がっている。ただ大手と中小で進捗に差がある状態は続くだろう」

「人口減少・少子高齢化の中で食品産業の成長は厳しい。『タイパ(タイムパフォーマンス)』重視のカット野菜など、現代のライフスタイルに適した商品が生き残っていくと思う」

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA27AJJ0X20C24A3000000/