
アスリートの新たな秘策?糞便移植がドーピングのグレーゾーンに
2025年4月28日
スポーツ界に新たな議論が巻き起こっている。糞便移植(Fecal Microbiota Transplantation, FMT)が、アスリートの身体能力向上に利用される可能性が浮上し、ドーピングの新たなグレーゾーンとして注目されている。専門家は、科学的な不確実性と倫理的問題から、早急な規制の議論を求めている。
腸内細菌がパフォーマンスを左右?
糞便移植は、健康なドナーの便に含まれる腸内細菌を患者の腸に移植する医療行為だ。本来は再発性クロストリジウム・ディフィシル感染症などの治療に用いられるが、近年、スポーツ科学の分野で注目を集めている。2019年の米国研究では、マラソンランナーの便をマウスに移植したところ、持久力が向上したと報告された。特定の腸内細菌が乳酸をエネルギー源に変換し、筋肉の効率を高める可能性が示唆されている。
「腸内細菌はエネルギー代謝や炎症抑制に影響を与えます。アスリートの腸内環境を最適化できれば、理論的にはパフォーマンスが向上する可能性があります」と、東京大学医学部の山田教授は語る。しかし、ヒトでの効果は未検証で、個人差や安全性の問題が大きいと警告する。
ドーピングの新形態か
世界アンチ・ドーピング機関(WADA)の現行ルールでは、糞便移植は禁止リストに含まれていない。薬物や遺伝子操作とは異なり、自然な細菌叢の移植は「不正」と見なされにくいためだ。しかし、一部のアスリートがこの手法を「秘密兵器」として試みているとの噂が広がり、スポーツの公平性を脅かす懸念が高まっている。
「もし特定のドナーの便が競技力を劇的に高めるなら、それはドーピングと何が違うのか」と、日本スポーツ倫理学会の佐藤理事は疑問を投げかける。移植の効果が一時的である点や、細菌叢の変化を検出する検査法がない点も、規制の難しさを物語る。
リスクと倫理的ジレンマ
糞便移植には感染症や副作用のリスクが伴う。2024年に米国で報告された症例では、不適切なドナー選定により多剤耐性菌が伝播し、重篤な感染症が発生した。また、どの細菌がパフォーマンス向上に寄与するのか、科学的根拠が乏しい現状では、効果を保証できない。
さらに、トップアスリートの便を高額で取引する「闇市場」の存在も囁かれており、倫理的な問題が浮上している。「スポーツは公平であるべき。腸内細菌の優劣で勝敗が決まる未来は、誰も望まない」と佐藤氏は訴える。
規制への道のりは遠く
WADAは糞便移植について「現時点では監視対象」とし、さらなる科学的データの収集を進めている。しかし、腸内細菌叢の変化をリアルタイムで追跡する技術は未開発で、ドーピング検査への適用は困難だ。国際オリンピック委員会(IOC)も、2026年冬季五輪を前に議論を加速させる方針だが、コンセンサスは得られていない。
アスリートと科学の間で
糞便移植の可能性は、スポーツ科学の進歩を示す一方で、倫理と公平性のバランスを問う試金石となっている。山田教授は「科学的な検証が追いつくまで、安易な利用は避けるべき」と強調する。アスリートたちは勝利を追求する中で、新たなリスクと誘惑に直面している。
スポーツの未来を守るため、科学者、競技団体、選手が一丸となってこの問題に取り組む必要がある。糞便移植が新たなドーピングの扉を開く前に、ルール作りが急がれる。 (編集部)
https://x.com/i/grok/share/lNT2pLBgKLmqk7pNGpN0nG0HM