>>411 ジンバブエのロバート・ムガベ元大統領(1980-2017年政権)は、2000年代初頭に白人農場主から土地を強制収用する政策を推進しました。この政策は、植民地時代の歴史的経緯と独立後の社会経済的矛盾が背景にあり、賛否両論を巻き起こしました。以下に主要な点を整理します:
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### **1. 政策の背景:植民地支配と土地問題**
- ジンバブエ(旧南ローデシア)は19世紀後半からイギリスの植民地支配下で、人口の5%に過ぎない白人農場主が国土の70%の肥沃な土地を独占していました。
- 1980年の独立時、イギリスは「土地補償」を約束しましたが、実際には十分な補償が行われず、白人農場主も土地返還に消極的でした。1997年にはイギリスのブレア政権が補償責任を否定し、ムガベ政権の強硬策を招きました。
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### **2. 「ファスト・トラック」土地改革の内容**
- **強制収用**:2000年以降、白人農場主4,500人から土地を没収し、黒人農民に再分配。退役軍人や政府支持者が武装して農場を占拠する事例も発生し、11人の白人農場主が殺害される事件も起きました。
- **目的**:独立戦争の黒人退役兵や貧困層への土地配分を通じ、「経済的正義」を実現すると主張。ムガベは「土地は黒人のもの」と演説し、反植民地主義を強調しました。
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### **3. 政策の影響:経済的混乱と社会的分断**
- **経済的打撃**:大規模農業が崩壊し、トウモロコシやタバコの生産量は一時50%以上減少。2008年にはハイパーインフレ(年間2億%超)が発生し、経済が崩壊しました。
- **国際的孤立**:欧米諸国から経済制裁を受け、英連邦を脱退。一方で、アフリカ諸国からは「植民地清算」として支持される複雑な反応がありました。
- **長期的な評価**:
- **批判的見解**:農業生産性の低下や人権侵害(白人農民殺害)を指摘。
- **肯定的見解**:小規模農家の増加(タバコ農家は2000世帯→6万世帯に)や、2010年代以降の生産量回復を強調する研究も存在。
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### **4. その後と現在**
- 2020年、ムナンガグワ政権は収用された白人農場主に35億ドルの補償を約束し、一部の土地返還を認めました。
- 現在もジンバブエの農業は完全には回復しておらず、人種間の対立や経済格差が残っています。
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### **総評**
ムガベの土地改革は、植民地時代の不正義是正を掲げた一方、手法の強硬さが経済的・人的犠牲を招きました。政策の是非は「歴史的正当性」と「現実的影響」の狭間で議論され続けています。