第7回 「ウクライナ侵攻はない」と旧ソ連の専門家はなぜ主張したのか
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/19/081900025/083000007/?ST=m_column

あの「2月24日」の衝撃からある程度の時間がたった今、当初の茫然自失から立ち直って、顧みた時、どんなことが言えるだろうか。そもそも、廣瀬さんはなぜ、侵攻を「ありえない」と考えていたのだろうか。

「政治的整合性が全くないんですよね。全く論理的にメリットがないことであって、それをやることによって何の得もないわけですよ。どう考えても。
そんなことをまさか政治家が行うのかというところに非常に大きな疑問を感じていました。
未承認国家についても、これは旧ソ連の中で反ロシア的な国を制御するのに非常に便利な存在であって、ロシアはそれを持っておくと外交カードとして得なんですよね。
それなのに、『ドネツク人民共和国』と『ルガンスク人民共和国』を国家承認してしまっては、もう未承認国家として使えなくなってしまいます。
それをやってしまった2月21日の段階で、侵攻は不可避となっていたと言えます。
逆に言えば、侵攻の準備として国家承認を行ったと言えます。
そもそも、2月24日の侵攻を宣言するプーチン大統領の演説で、プーチンはウクライナ東部2州がロシアに助けを求めてきたのを受け、『国連憲章第7章51条と、ロシア安全保障会議の承認に基づき、また、本年2月22日に連邦議会が批准した、『ドネツク人民共和国』と『ルガンスク人民共和国』との友好および協力に関する条約を履行するため、特別な軍事作戦を実施する決定を下した』と述べているんですよね」

国連憲章第7章51条とは、「国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が必要な措置をとるまでの間、加盟国は個別的・集団的自衛権を行使できる。加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない」という内容で、加盟国による個別的・集団的自衛権の行使を認めるものだ。つまり、ロシアの論理に基づけば、ロシアが国家承認をした主権国家たるドネツク・ルガンスク両「人民共和国」から軍事支援を要請されたので、「両国」承認の際に締結した条約に基づき、集団的自衛権を行使して侵攻に踏み切ったということになる。ロシアにとって、ウクライナ侵攻は、国連憲章と条約に基づいた行動なのである!

 ただし、なぜロシアが、あるいはプーチン大統領が、このような大きな構えで事を起こしたのかということには謎が多い。国連憲章を持ち出さなくとも、条約を理由にせずとも、ロシアは侵攻できたはずだからだ。

以下略