https://news.infoseek.co.jp/article/mainichi_20211208k0000m040153000c/

文部科学省は8日、2022年度に全国の高校1年生が使う教科書の採択結果を公表した。実用的な国語力の養成を目的とする新科目「現代の国語」では、文科省の意向を酌んで、多くの教科書会社が小説の掲載を見送る中、芥川龍之介の「羅生門」など5点の小説を載せて物議を醸した「第一学習社」(広島市西区)の教科書が19万6493冊(シェア16・9%)と、採択数でトップとなった。
 22年度の高1から実施される新学習指導要領では、国語の唯一の必修科目だった「国語総合」(4単位)が、「現代の国語」(2単位)と「言語文化」(2単位)に分けられる。近現代の文学作品を読む活動は、古文や漢文も扱う「言語文化」に集約。法律や契約書の読解といった実用的な国語力の養成を目的とする「現代の国語」では、原則として認められていない。
 このため、第一学習社の教科書は、5点の小説は読むための素材ではなく「書く力を高めるための教材」と位置づけている。それでも人気を集めた今回の採択結果は、「現代の国語」でも小説を扱いたいという高校現場のニーズを示したものと言えそうだ。
 現行の「国語総合」では、第一学習社は21年度、最も採択数が多い教科書でも8万7674冊(シェア7・2%)の2位だった。
 文科省は「採択理由までは調査していないので、小説掲載の影響があったかどうかは分からない」としている。【大久保昂】
戸惑い隠せぬ競合他社
 第一学習社が躍進した採択結果に、他の教科書会社は戸惑いを隠さない。
 現場のニーズがあることを知りながら、多くの社が小説の掲載を見送ったのは、文科省が「『現代の国語』で小説を扱う余地はない」と説明してきたからだ。その意を酌んだために損をする格好となり、「文科省への信頼は失われた」といった厳しい声が上がる。
 「現代の国語」の次回の教科書検定は2024年度。文科相の諮問機関「教科用図書検定調査審議会」の小委員会は8月、「今後は小説を扱うことについて、より一層厳正な審査を行う」との見解を示した。小説を載せた教科書を新たに検定に出しても、合格のハードルは上がったと言える。
 一方、既に合格している第一学習社は、小説が載った教科書を約10年後の学習指導要領の改定まで発行できる。ライバル社の編集者は「第一学習社の独り勝ちが続く可能性があり、不公平としか言いようがない」と憤る。【大久保昂】