紛争勃発前夜まで、私は「侵攻はない」と自信を持って主張していたのだ。しかし、侵攻は起きてしまった。その時、「私が知っている」ロシアは消滅し、私が構築してきた議論も崩壊した。自分の長年の研究は何だったのだろうか、そして人間は戦争を防げないのか、という絶望的な気持ちに苛まれた。

だが、この戦争勃発で、茫然自失となっている社会科学研究者は少なくないらしい。たとえば、相互依存論で平和が維持できるとしていた論者は、相互依存状態が戦争を防がないという現実に衝撃を受けているという。また、核抑止論者は、核は戦争の抑止にならないばかりか、核を持つ好戦国が戦争を起こせば、その核が他国の介入をも抑止してしまうという現実に打ちひしがれているという。このような例は枚挙にいとまがないだろう。

それでは研究は戦争を止められないのか...。残念ながら止められないことは、今回の顛末からも明らかだ。

https://www.sfc.keio.ac.jp/deans_diary/016182.html