■信長は「魔王」だった? 実は仏教用語だった「魔王」  

さて「ドラクエ」シリーズによってイメージが定着した言葉は「勇者」だけではありません。
「魔王」という言葉もまた同シリーズによって大きくイメージが変化しました。
「バラモス」や「ゾーマ」が登場する以前、「魔王」はどのような意味合いで使われていたのでしょうか。
「魔王」という言葉は、もともとは仏教用語でした。
人びとが仏道にはいるのを妨げる者を意味しており、
転じてそこから人を悪の道に誘い込む魔物という意味合いに変化しました。

また日本の歴史のなかでは自らを「魔王」と称した武将が存在します。
その武将こそ、織田信長に他なりません。俗説ではありますが、
比叡山延暦寺をはじめとする宗教勢力に対する立場表明として、
仏教修行を妨げる天魔を統べる存在「第六天魔王」を名乗ったとのこと。
ここでいう「魔王」とは「仏敵」を強調する意味があります。  

またシューベルトが1815年に作曲した「魔王(Erlkonig)」の意味合いも非常に気になるところ。
熱病に冒された息子がしきりに「魔王」の存在を父に訴えるこの歌曲、
音楽の教科書にも採用されているため耳にこびりついているという方も
多いのではないでしょうか。
原詩における「魔王」はどちらかと言えば「妖精の王様」といったイメージであり、
果たして「魔王」と訳してよかったのかどうかは未だに議論の余地があるとか。  

史上最高の知名度を誇る武将から、クラシックの名曲まで
「魔王」のイメージは紆余曲折を経て、やはり『ドラクエ』によって固まりました。
今では「勇者が魔王を倒す」という構造は物語の原風景として私たち日本人に浸透しており、
次の百年で「勇者」「魔王」の意味がどう変わっていくのか、次の世代に定点観測してもらいたいと思います。

https://news.yahoo.co.jp/articles/51379b180acc8f0d508cbc3a066a9270d7d71a1c