大田の分担制ものづくり

町工場が集まる大田区で独自に発展したとされる企業文化で、専門分野が異なる複数の工場が手分けして一つのものを作り上げる「仲間まわし」。
デジタル技術を導入することで、やり取りをインターネット上で一元的に行えるようにする官民連携の取り組みが始まる。
支援する区は、事業を通じて「コロナ禍で厳しい状況が続く町工場の生産性向上につなげたい」としている。(中村俊平)

■下町ボブスレーも  

大手企業などから製品製造を受注した町工場が、切削や研磨といった加工工程に分けた上で、それぞれに高度な技術を持つ近隣の別の町工場に発注する。
大田区ではこうした企業間ネットワークの活用を「仲間まわし」と呼ぶ。1社単独では難しい案件にも対応が可能なだけでなく、
成長の果実を街全体で分けあうことにもつながる。区を代表する産業である製造業が発展する力の源泉となってきた歴史があり、
実際に冬季五輪での採用を目指すそり「下町ボブスレー」も、20を超える町工場が技術力を結集して製作した。

受注ネットで共有 区と連携生産性向上へ
一方で、町工場間の受発注や見積もり、納期の確認作業はこれまでファクスや電話が中心だった。受注案件の規模によっては発注書や図面などの書類が200枚近くに達することもあり、
やり取りの手間が煩雑になることも少なくなかったという。

大田区と区内の町工場5社で作る合同会社「I―OTA(アイオータ)」が7月以降に運用を始める予定の新システムは、ネット上のクラウドサービスを活用。
登録した受注情報は各町工場がただちに共有することができ、工程ごとに参加したい企業をそのまま募れるようにもなる。アイオータ代表社員の国広愛彦さん(47)は
「受発注の細かな手間が省ければ、町工場が製造作業に注力することができ、納期も短縮できる」と自信を見せる。

■産業衰退に危機感  

背景にあるのは、苦境が続くものづくり産業への強い危機感だ。大手企業の海外移転や後継者難による廃業などを受け、
2016年の区内製造事業所は約4200とピーク時(1983年)の半分以下まで落ち込んでいる。さらにコロナ禍も追い打ちをかけているという。
このままでは長い伝統を持つ「仲間まわし」が衰退する恐れがあると考えた区は、17年からアイオータに加わる若手経営者らとともに復活に向けたアイデアを練ってきた。

IT企業と連携して開発し、実証実験でも効果が確認された新システムには、現時点で区内約70の町工場が参加する意向を示しているという。
区はデジタルの強みを生かして全国の製造業者にも登録を呼びかける方針だ。荒井大悟・区産業調整担当課長は「連携の幅を広げることで『仲間まわし』をさらに発展させ、
大田が誇るものづくり文化を守りたい」としており、国広さんも「受注するだけの下請けの枠を超え、製造の企画や提案ができる精鋭の町工場集団を目指したい」と話している。

https://www.yomiuri.co.jp/local/tokyo23/news/20220531-OYTNT50194/