ついに「日本が独り勝ちする時代」がやってきた
なぜ円安が進んでいるのにそこまで言えるのか

2022/09/17 6:30小幡 績 : 慶應義塾大学大学院准教授

円安が1ドル=145円にタッチしそうなまでに進み、世間では「日本経済は終わった」「この世の終わりだ」といったような雰囲気になっている。ある月刊誌などは「日本ひとり負けの真犯人は誰か」などという特集まで組んでいる。

■日本は世界と「真逆」

180度逆だ。ついに「日本がひとり勝ちするとき」がやってきたのだ。
当然だ。説明しよう。

世界は何をいま騒いでいるか。インフレである。インフレが大変なことになり、慌てふためいて、欧米を中心に世界中の中央銀行が政策金利を急激に引き上げている。

その結果、株価が暴落している。世中の中央銀行の量的緩和で膨らんだ株式バブルが崩壊している。実体経済は、この金利引き上げで急速に冷え込んでいる。一方、インフレは収まる気配がないから、いちばん嫌なスタグフレーション(経済が停滞する中での物価高)が確実になっている。世界経済は、「長期停滞」局面に入りつつあるのである。

一方、日本はどうか。世間が「ひとり負け」と騒ぐぐらいだから、日本だけが世界と正反対の状況になっている。

まず、世界で唯一と断言できるほど、インフレが起きていない。企業物価は大幅に上昇しているが、それが消費者物価に反映されるまで非常に時間がかかっており、英国の年率10%、アメリカの8%とは次元が違う2%程度となっている。

英国では、一家計あたりの年間エネルギー関連の支出が100万円超の見込みとなり、文字どおりの大騒ぎとなっている。新しく就任したリズ・トラス首相は、補助金をばらまくことによって、実質20万円以下に抑え込む政策を発表した。

だが、これによる財政支出は約25兆円にもなると言われており、これだけで「英国は財政破綻するのではないか」と言われるありさまだ。

これに比べると、日本の岸田政権のバラマキはバラマキでも低所得世帯へ各5万円程度、総額で1兆円弱であり、何の問題もなく見えてくるのである。

日本では、政策的に、電力会社が電気料金の引き上げを徐々にしかできないように規制しており、これが電気代の安定化に寄与している。日本では2%ちょっとの物価上昇でも、一時は大騒ぎになったが、インフレーションが加速するようなことが起きにくい構造になっているのである。

このような物価が安定した経済においては、中央銀行は急いで政策金利を引き上げる必要はない。だから、日本銀行は、世界で唯一、金融政策を現状維持して、のんびりできているのである。

■賃金が上がらない経済のほうが望ましい理由

これに対して、大多数のエコノミストたちは、「欧米は物価も上がっているが、賃金も上がっている。賃金が上げられる経済だから、物価が上がっても大丈夫であり、日本のように賃金が上げられない経済は最悪だ」として、日本経済を「世界最悪だ」とこき下ろしている。

間違いだ。

1973年に起きたオイルショックのときは、その後の労使交渉が友好的にまとまり、賃金引き上げを社会全体で抑制できた。これにより経済の過熱を抑え、世界で日本だけがインフレをすばやく押さえ込み、1980年代には日本の経済が世界一となった。

https://toyokeizai.net/articles/-/619077