「こころ」は漱石の前作「行人」の続編という流れなので、「行人」を読むと理解しやすくなると思う。
行人の主人公の一郎は、自分の妻を信じられない男で、自分の弟に「本当に妻が信頼できる人間か、お前が二人っきりで一晩泊まって試してみてくれ」と命ずる。

色々あって妻だけでなく弟や肉親、ついには他人全員信じられなくなった一郎は「信じられるのは自分だけ」「自分がこの世界で生きていくには、世界のすべて、人類の全てを自分にするしかない」と人類補完計画みたいなことを言い出すという流れ。
一郎は他人不振であると同時に、「この自分だけは自己の意思で完全にコントロールできる存在」と信じていて、「自分自身への無限の信頼」だけが生きるよすがになっている状態。

前作の「行人」が「自分以外の誰をも信じられなくなったら人間はどうなるのか?」を表した作品で、
続編の「こころ」は「では自分をも信じられなくなったら人間はどうなるのか?」を表した作品と思う。