【ロンドン=大西康平】スイスの金融機関大手クレディ・スイス・グループは19日、同社が発行した劣後債の一種である「AT1債」について、約160億スイスフラン(約2.2兆円)分の価値をゼロにすると発表した。株式より低リスクとされる社債での異例の巨額損失発生となる。投資家心理が悪化して、世界の社債市場での売りに波及する可能性もある。

クレディ・スイスの発表では、同日にスイス金融市場監督機構(FINMA)がAT1債の減損を決めて同社に通知をしたという。

AT1債は銀行の財務が悪化した際に債券の保有者が損失を引き受ける債券だ。国際的な規制で、銀行の自己資本として算入できることから発行が進んできた。

米ブルームバーグ通信によると、AT1債の市場規模は世界で約2750億ドルに達するという。低金利下で高い利回りを求めるイールドハント(利回り狩り)が強まった21年まで、世界の社債投資家が積極的に買いを入れていた経緯がある。

ただ巨額損失は異例のことだ。2017年にスペインのバンコ・ポピュラールが発行したAT1債が減損となったが、損失は約13.5億ユーロにとどまったとみられる。保有債券の損失やAT1債のリスクへの懸念で投資家心理が悪化し、社債市場全体の価格下落につながりそうだ。

AT1債の価値がゼロになることに対して社債投資家からは不満の声も出ている。企業破綻時の弁済の優先順位は一般的に、AT1債は普通社債と比べて低いものの、株式よりは高いとされる。ただ今回の買収の枠組みは株式交換でクレディ22.48株あたりUBS1株を割り当てた。一定の損失はあるがクレディ株の価値がゼロにならないのに対し、AT1債が無価値となる。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR2007W0Q3A320C2000000/