ダウン症も治療可能に? iPS細胞にゲノム編集、国内外で進む研究

 3月21日は世界ダウン症の日。ダウン症候群のある人は、日本に約8万人いると推定されている。この50年間で寿命が50歳延び、日々の生活や合併症への理解が深まってきた。さまざまなデータが集まり、治療につながる研究も進んでいる。

 ダウン症は、21番染色体が1本多い3本あることで発症する。大阪大学の北畠康司准教授(小児科学)によると、21番染色体には約300の遺伝子があり、遺伝子の働きが1・5倍になることで、様々な症状が表れるという。

 たとえば21番染色体には、血液の増殖にかかわる重要な遺伝子があると考えられている。そのためダウン症の赤ちゃんのおよそ10%には、「一過性骨髄異常増殖症」という白血病のような合併症がみられる。

 40代以降にアルツハイマー病を発症する人も少なくない。21番染色体にある「APP」という遺伝子によって、アルツハイマー病の発症にかかわるアミロイドβが、脳内にたまりやすいためと考えられている。

 また、脳内の神経細胞が少ない一方で、神経細胞の働きを支える「アストロサイト」という細胞は多い。21番染色体にある「DYRK1A」という遺伝子の働きが強まっていることが原因とされる。

 こうしたデータが集まってきたことで、ダウン症の根本的な治療や、さまざまな合併症に対する治療の研究が進んでいる。

 北畠さんらの研究チームは、ゲノム編集により神経症状を改善することをめざしている。

 難しいのは、ダウン症の人では神経の発達に関するDYRK1A遺伝子が過剰に働いているが、逆に遺伝子の働きを抑えすぎると、自閉症のリスクにつながることだ。北畠さんらは、ダウン症のある人から作ったiPS細胞を使って、遺伝子の数を正確に減らす技術の開発に挑戦している。

 海外でも研究が進む。

 2016年には、茶のカテキン成分で認知機能が上がったという研究結果が報告された(https://doi.org/10.1016/S1474-4422(16)30034-5別ウインドウで開きます)。

 3本ある21番染色体のうち、1本の働きを丸ごと抑える技術の開発も進む。

 ただ、いずれも、まだ十分に確立されている治療法ではない。

 ダウン症のある人は、およそ15~30歳の頃に、話さなくなる、動かなくなる、好きだったものに興味がなくなるといった「退行様症状」が出ることがある。

 米国の研究チームは、「免疫グロブリン」を投与することで、こうした症状が改善するという結果を発表した(https://doi.org/10.1186/s11689-022-09446-w別ウインドウで開きます)。今年から臨床試験を始める。

 北畠さんは「自分の子がダウン症だと知ると、治療法がないことや将来に対する情報が少ないことから、ほとんどの親は漠然とした不安を抱える。医療者もダウン症のことを知らない人が多く、これまでは研究が進まなかった」と話す。

https://www.asahi.com/sp/articles/ASR3N3GLHR3KUTFL005.html?iref=sp_new_news_list_n