「ポストは天からの預かりもの」安倍晋三氏、幻に終わった〝首相三選〟への意欲 
台湾有事想定「世界の首脳と交渉、陣頭指揮」
https://news.yahoo.co.jp/articles/cb9c905feef504271c3dfa139e47c3d998e076af

【岩田明子 さくらリポート】

「第三次政権に向けて、そろそろ始動という感じかな」

持病悪化による辞意表明から、まだ1カ月しかたっていない2020年9月30日、
安倍晋三元首相は突然、私の前で「首相三選」への意欲を冗談ぽく口にした。

憲政史上最も長く(8年8カ月)首相を務め、その重職から解放された安倍氏は
当時、睡眠を十分に取り、ストレスの少ない生活を送っていた。
新薬が劇的な効果をみせ、体調も回復の兆しを見せていた。

安倍氏は「首相」という役職に、独自の理念を持っていた。

「ポストは天からの預かりもの。特に首相はそうだ。
常に公の精神が必要で、『これは本当に国のためになるのか』という視点で考え、
政策判断や人事を行わないと、必ずどこかでうまくいかなくなるものだ」

(中略)

安倍氏には「国家的危機にあたり、全世界の首脳たちと交渉し、
陣頭指揮を執ることは、まさに自分の責務」という自負があった。

一方で、「仮に自分が望まれるなら、自然と機運が高まり、
私に対する熱気が一気に高まるはずだ」と、天に運命を託しているような言葉も漏らしていた。

21年9月の自民党総裁選は、安倍氏にとって、
再び首相に返り咲く政治力があるかを測る試金石でもあった。
安倍氏は当時、政治理念が近い高市早苗氏を支持した。

「高市首相に加えて、上川陽子官房長官。
女性2人が並ぶことは日本の政治も国際社会から歓迎されるだろう。
良い布陣だと思わないか」と政権構想を語ったことすらあった。

安倍氏は自ら党所属の国会議員に片っ端から電話する意気込みを見せ、
高市氏は目標である100票超を獲得した。総裁選で健在ぶりを印象付けた安倍氏は、
党最大派閥の会長に就任して精力的に活動していた。

まだまだ、これからだった。

安倍氏は昨年7月、奈良市での参院選の街頭演説中に凶弾に倒れた。「首相三選」は幻に終わった。

21年10月に誕生した岸田政権はきょう(4日)、発足から1年半を迎えた。
安倍氏は生前、岸田氏への期待を語る一方で、不満めいたことを口にすることがあった。
昨年6月、安倍氏が信頼する島田和久防衛事務次官が退任を余儀なくされた際には、こう疑問を呈していた。

「年末には安保関連三文書や防衛費の件も控えているのに、なぜこのタイミングなのか。
国のための人事を仮に私物化するような結果になれば、政治家としての天運が
落ちてしまうことを心得なければならない」

安倍氏が情に厚く、流されやすい側面があったということも事実だ。
だが、「雌伏の5年」を経た第2次安倍内閣では、人事をはじめ、
さまざまな決断の場で私心の排除に努めた。