ヨーロッパの福祉大国であるデンマークやスウェーデンには、いわゆる寝たきり老人はいないと、どの福祉関係の本にも書かれています。他の国ではどうなのかと思い、学会の招請講演で来日したイギリス、アメリカ、オーストラリアの医師をつかまえて聞くと、「自分の国でも寝たきり老人はほとんどいない」とのことでした。一方、我が国のいわゆる老人病院には、一言も話せない、胃ろう(口を介さず、胃に栄養剤を直接入れるため、腹部に空けた穴)が作られた寝たきりの老人がたくさんいます。

 不思議でした。日本の医療水準は決して低くありません。むしろ優れているといっても良いくらいです。

 「なぜ、外国には寝たきり老人はいないのか?」

 答えはスウェーデンで見つかりました。今から5年前になりますが、認知症を専門にしている家内に引き連れられて、認知症専門医のアニカ・タクマン先生にストックホルム近郊の病院や老人介護施設を見学させていただきました。予想通り、寝たきり老人は1人もいませんでした。胃ろうの患者もいませんでした。

 その理由は、高齢あるいは、がんなどで終末期を迎えたら、口から食べられなくなるのは当たり前で、胃ろうや点滴などの人工栄養で延命を図ることは非倫理的であると、国民みんなが認識しているからでした。逆に、そんなことをするのは老人虐待という考え方さえあるそうです。

 ですから日本のように、高齢で口から食べられなくなったからといって胃ろうは作りませんし、点滴もしません。肺炎を起こしても抗生剤の注射もしません。内服投与のみです。したがって両手を拘束する必要もありません。つまり、多くの患者さんは、寝たきりになる前に亡くなっていました。寝たきり老人がいないのは当然でした。

https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20120620-OYTEW61295/