大津地裁の法廷で、ユリコさん(仮名、30代)の訴えが読み上げられた。

 「抵抗しているうちに私にとって体の一部である補聴器が外れ、何も聞こえなくなりました。自分の抵抗する声も、過呼吸のような速く短い呼吸をする声さえも聞こえなくなった時には絶望を感じました」

 ユリコさんには先天的な聴覚障害がある。ある年の夏、滋賀県内のアパートの廊下で、男にいきなり背後から布をかぶせられて目隠しをされた。殴られ、アパートの空き部屋に連れ込まれた。抵抗する中で補聴器が外れ、周囲の音が全く聞こえなくなった。さらに手足を縛られ、乱暴された。

 性暴力の途中、男が目隠しの隙間からユリコさんにスマートフォンの画面を見せてきた。「耳が聞こえないのか」。その後も男は画面に文字を入力し、性的な行為などを指示した。犯行は4時間に及んだ。

 逮捕された加害者の男は会社の同僚だった。裁判で、被害者に聴覚障害があることを知っているかと問われ、「知っていました」と答えた。男が計画段階でスマホに打ち込んでいたメモには「耳も聞こえない、声すら聞こえない。警察に駆け込んでも捕まらない」という文面もあった。

 男には懲役13年の判決が言い渡された。

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 ユリコさんの事件の後に施行された改正刑法は、「同意しない意思を形成、表明、全うすることが困難な状態」で性交するなどした場合に不同意性交罪や不同意わいせつ罪で処罰するとし、成立要件として具体的に8類型を例示した。この類型の一つに「心身の障害」が盛り込まれた。

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