◇“引退報道”に違和感
 なぜ、古谷さんのアムロ・レイ役について、バンダイナムコに質問したのかといえば、皆さんも、関係者に聞いてもその点を気にする人が多かったからです。しかし、もう一つあります。一部で、古谷さんの“引退”の記事が出て、根拠にかなり違和感があったからです。

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 前者の記事はSNSの声を集めたもので、根拠はネットの声の伝聞……「こういう書き込みもある」というもの。後者の記事は関係者のコメントを取って「引退」の根拠にし、さらに「ツメカッコ」を使い「引退ではない」というニュアンスを込めています。

 そして前者の記事は、朝日新聞デジタルにも配信されており、検索の表示が結構なインパクトのあるものになっています。ネットの声をまとめただけで引退を示唆するような「コタツ記事」が、朝日新聞のブランドと合体しているからですね。私も最初は「朝日新聞が何かをつかんだのか」と思ってクリックすると、違ったわけです。大手新聞社のブランディング的に「大丈夫?」と思ってしまうわけですが、そこまで心配するのは“余計なお世話”でしょうか。

検索のスクリーンショット。朝日新聞デジタルが「古谷徹70歳、事実上の声優引退か」と報じてるように見えますが、クリックして出るのは朝日新聞ではなく、外部配信の記事。良く見るとリードは同じです。
 確かに、ネットで古谷さんの引退を示唆する声があるのは事実ですが、SNSは「個人の感想」にすぎません。消費者の声を拾うのも大事ですが、影響力が大きいメディアで扱うならば、より慎重になるべきですし、今回のようなケースでは、やりようがあるはず。そもそもマスコミであれば広報に聞くこともできます。取材をしてから、掲載しない判断をしたのかもしれませんが、取材をした形跡を記事に残すほうが誤解されないのではないでしょうか。「引退」という重い話を、本人や近しいところから取材で突き止めたならば、報じることは理解できますが……。

 いずれにしても「掲載のスピード重視」「手間のかかる取材を避ける」「多少過激でも、アクセスの稼げそうな見出しにする」というのは、ネットメディアのトレンドで、その良くない点が出ています。消費者から「ネットの声を集めて書くだけの仕事」「だからネットメディアには期待しない」と思われてしまうのは、あまりにも残念でなりません。

◇間違いは誰でも犯す
 確かに古谷さんの報道は、本人が認めているのがすべてです。近年はコンプライアンスの順守が問われており、社会的なモラルに反する行為は、世間から批判されるは仕方のないことでしょう。しかし、人間であれば、誰もが間違いは犯す可能性があるのもまた事実。古谷さんの声を聞いてアニメが好きになった人、勇気をもらった人、あこがれて声優の道に進んだ人もいるでしょう。

 今後の進退については、本人の意思、そして家族や関係者の方との話で決まるべきこと。何より古谷さんは公式に謝罪をしています。現在の古谷さんから、反論や今後の話など、できようはずもありません。「引退」の可能性を報じるなら、もっと根拠が欲しいとは思うのですが……。

 したことがしたことだけに、賛否両論があるとは思いますが、過ちを犯した人であっても、復帰の道が用意される社会であってほしいと願っています。